アルバム「タイニー・ポップ~ヒアズ・ザット・タイニー・デイズ」/Pヴァイン提供
アルバム「タイニー・ポップ~ヒアズ・ザット・タイニー・デイズ」/Pヴァイン提供
エブリデとLisaによる兄妹ユニットwai wai music resort/Pヴァイン提供
エブリデとLisaによる兄妹ユニットwai wai music resort/Pヴァイン提供

 2010年代に入ったあたりから、新しい音楽との出会いの場がネット上に増えてきた。ポップ・ミュージック、ロック・ミュージックなどに限って言えば、長年、フェスやクラブ・イベント、オーディションやコンクールなど、ライヴや生演奏で観せる「体験」が次なる扉を開けるきっかけをつくってきた。だが、人前で演奏する機会がほとんどない、あるいはそこに重きを置いていない、それ自体を好まないアーティストには圧倒的に不利な状況だったと言っていい。

 いわば「バンド優勢」の状況を変えたのが、ビートメーカーやDJとしての出自を持つ男性ソロアーティストtofubeats(トーフビーツ)やボカロP(プロデューサー)としての活動を出発点とする米津玄師の存在だ。ブレークした彼らが、きらびやかなポップ・ミュージックの魅力を我々リスナーに再確認させたことの意味は大きい。特にtofubeatsは、昨年までは出身地である神戸に拠点を置き、東京と地方を行き来するアーティストとして、商業的成功と全国的な人気を勝ち得ることができることも証明してみせた。

 今回紹介するアルバム「タイニー・ポップ~ヒアズ・ザット・タイニー・デイズ」は、そうした2010年代後半以降の新たなJポップのあり方を受け継ぐ精鋭たちを集めた作品だ。参加しているのは、一般的にはまだ無名に近いアーティストたち。だが、聴いてみるとわかる。いつかどこかで聴いたことがあるような、懐かしい匂い。こういう感覚をどこかで探していた、というような思いをスルリと引き寄せてしまう、さりげない強さ。この作品で聴ける11曲は、すべてそうした遠い記憶が実は最もモダンで未来のポップスであることを伝えている。 

 このオムニバス・アルバムに参加しているのは6組。多くが「サウンドクラウド」など楽曲共有サービスでの作品発表を足がかりにしたアーティストだ。昨今、世界中で多くの作り手がYouTubeなどの動画投稿サイトも含めたインターフェイスを利用することが多い。かくいう筆者もライヴハウスのような生演奏の場以上に新たな出会いをネット上に求めることが増えている。

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岡村詩野

岡村詩野

岡村詩野(おかむら・しの)/1967年、東京都生まれ。音楽評論家。音楽メディア『TURN』編集長/プロデューサー。「ミュージック・マガジン」「VOGUE NIPPON」など多数のメディアで執筆中。京都精華大学非常勤講師、ラジオ番組「Imaginary Line」(FM京都)パーソナリティー、音楽ライター講座(オトトイの学校)講師も務める

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