当時、同大学院の院生だった原田さんは小泉昭夫教授(現在は名誉教授)の指導の下、全国の約90河川で調査。他より高い値を示したのが多摩川だった。

 多摩川流域を重点的に調査したところ、下水を処理する昭島市の多摩川上流処理場(現多摩川上流水再生センター)付近で汚染濃度が高くなることを確認。同処理場の放流口で採取した水から最大440ナノグラムのPFOSを検出した。研究チームは、同処理場に流れ込む下水がPFOS汚染の原因と結論付ける論文を2003年に発表した。

 この際、多摩川の地下水を利用して世田谷区民に水道水を提供する砧浄水場の水質も調査したが、PFOSなどは43~50ナノグラムと、勧告値未満であることを確認したという。

 05年には、この汚染が横田基地の排水によって生じた可能性がある、と考察する論文も発表した。横田基地ではPFOSを含む泡消火剤が使われており、約5キロ離れた処理場に基地の下水が流入しているためだ。原田さんは言う。

「当時は可能性の言及にとどめましたが、その後、沖縄や米国内の航空基地周辺でPFOSなどの残留濃度が高い実態が相次いで明るみに出た。今回も『やはり』と受け止めました」

 米環境保護局の勧告値は、1日2リットルを70年飲んでも健康に影響がない値とされる。国内では厚生労働省が、米勧告値にあたる目標値を今春に設ける方向で検討している。

 井戸水で検出された勧告値の19倍という値をどう認識すればいいのか。原田さんは言う。

「勧告値は急性的な健康被害のリスクを示す数値ではありませんが、19倍は決して安全とは言えません。厚労省が目標値を発表する前であっても、行政は米国の勧告値を参考に、横田基地周辺など汚染が確認された地域の住民に井戸水を飲まないよう注意喚起するべきです」

 水道水の汚染についてはどう対応すべきなのか。沖縄県では15年度に7市町村に水道水を供給している北谷浄水場(北谷町)で最大120ナノグラムを検出した。これを受け、県は緊急対策として北谷浄水場に活性炭フィルターを設置。18年度の平均値は29ナノグラムに収まった。

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