彼らの怒りを買うことを恐れて共和党内ではトランプ氏にたてつく声が弱まっている。「われわれの大統領を守れ」。トランプ陣営への個人献金額も急増した。

 トランプ氏としては、このモメンタム(勢い)を弾劾裁判でも維持しなければならない。

 まずは弾劾訴追を主導した民主党の鼻を明かすこと。イランに対する攻撃は、国民の目をそらすだけではない。「国家の緊急時に党利党略の弾劾をしている場合か」と野党批判の格好の口実にもなる。

■経済絶好調でも不人気

 もっとも上院がトランプ氏を有罪と評決し、罷免するには上院の3分の2の賛成が必要だ。上院は共和党が過半数で、「無罪」の結果はほぼ揺るがない。トランプ氏の政治的な目算はむしろ別のところにありそうだ。

 いくら共和党支持層を固めたとはいえ、全体としてはトランプ氏の支持率は4割と「低空飛行」が続く。史上最高値を更新する株式市場、半世紀で最低水準の失業率と、米国経済が絶好調なことを考えれば、異例に不人気な大統領ともいえる。

 つまり、トランプ氏が再選を果たすために死活的に重要なのは、支持層をいかに広げるかよりも、確実に投票所に足を運んでくれる岩盤支持層を維持できるかどうかに尽きる。そのためにも下院での弾劾訴追決議に続いて、上院の評決でも与党議員の造反を一人も出さず、共和党の固い結束をアピールできるかが何よりもカギとなる。

 不安要素はあった。

 シリアなどからの米軍撤退や北朝鮮への融和姿勢、保護主義的な通商政策など、伝統的な共和党路線と正反対の方向に走るトランプ氏への不満はかねて上院などでくすぶっていた。特に米無人機やサウジアラビアの石油施設が攻撃を受けてもトランプ氏がイランに「報復」しなかったことに、「弱腰」批判も広がった。

 弾劾裁判が始まる前に、共和党内に異論が広がる芽を摘み取っておくため、あえてイランに強く出た可能性は高い。

 ただ、その「代償」はトランプ氏が想定していた以上に高くつくかもしれない。

■非介入主義からの転換

 米国はアフガンや中東で20年近く「終わりのない戦争」を続けており、国民には「巨額の戦費を国内に振り向けるべきだ」という厭戦気分が近年、強まっている。

次のページ
トランプ政権が揺らぐ「シナリオ」