「現代人の中には『困ったら困らないようにしよう』と考える装置があります。迷いはダメ、悟りは良いと。私の本を読むときでも、ともすれば悟りの方向で読もうとします。そのあり方を道元禅師は真っ向から否定されます。『お前は主役ではない。《縁起》の上にたまたま在る産物なのだ』と。

 人間は、いのち、地球、大地、風など《わたし》を超えた大いなるものの《はたらき》の中に存在しているんですよ」

『わたしを生きる』に選ばれた言葉を繰り返し読んでいると、そのことが少しずつ体の中に入ってくるのを感じる。

「自己をならふといふは、自己をわするゝなり」(「現成公案」)

(ライター・千葉望)

■東京堂書店の竹田学さんのオススメの一冊

『自己責任の時代 その先に構想する、支えあう福祉国家』は、説明責任を果たさない現在の日本で、必読の書と言えるだろう。東京堂書店の竹田学さんは、同著の魅力を次のように寄せる。

*  *  *

 現代は病気や障害、貧困、果ては紛争地の取材に対して自己責任という言葉が浴びせられる社会だ。本書で気鋭の政治学者ヤシャ・モンクは、政治哲学上の論争や大統領演説、戦後の福祉国家の変遷などを詳細に分析し、自己責任論からの脱却を模索している。

 著者によると、かつて責任という言葉は社会や他者に対する義務を意味していたが、80年代以降、自助努力し、その結果のリスクは自らのみが負うという意味に切り詰められていった。この自己責任論の流行は、経済成長の鈍化、新自由主義の台頭とともに強められて今に至っている。

 著者は哲学・社会政策上の議論を批判的に検討し、各人が主体性を持って社会の中で生き、それを支える「肯定的な責任像」への転換を主張する。政権中枢にいる者が説明責任を果たさない日本で、今読まれるべき本だと思われる。

AERA 2020年1月13日号