批判で知名度は上がった。しかしこの一連の「啓発」がACPへの理解不足を図らずも浮き彫りにした、という指摘がある。

「ACPとは先々の治療方針などを『決めてしまう』ことではありません。患者さんの揺れる気持ちに付き合いながら、繰り返し話し合うことが重要です」

 こう話すのは、東京都の永寿総合病院で緩和ケア医を務める廣橋猛(ひろはしたけし)さんだ。その意味で、一回きりのイメージを持たれがちな「会議」という言葉を愛称に使ったことに、違和感があると言う。ACPはふだんの定期的なコミュニケーションの中から自然にいつの間にか行われているもの。「特別なもの」にしたくない、と話す。

「『さあ、いまから会議を招集しましょう』という性格のものではないんです」

 健康社会学者の河合薫さんは自身の体験を元にこう話す。

「最後の日々をどう過ごしたいか。私は父を膵臓(すいぞう)がんで亡くしましたが、告知された時、患者の家族は『一日でも長く生きていてほしい』と思うのが当然と思っていた。でも衰えていく父を見ているうちに『一日でも多く笑顔でいてほしい』と。家族や患者の価値観は変わるんです。答えは一つじゃない。そして自分の価値観のもとに選ぶことができる。そのために『何度でも』話し合う。それがACPの本質なんです」

(編集部・小長光哲郎)

AERA 2020年1月13日号より抜粋

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小長光哲郎

小長光哲郎

ライター/AERA編集部 1966年、福岡県北九州市生まれ。月刊誌などの編集者を経て、2019年よりAERA編集部

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