キス&クライでは、サプライズで用意していた花束を長光歌子コーチに渡した。

「長光先生がいなければ、今の僕はない。最後に演技で返せなかったのが悔しい部分ですが、あまり格好よく決められないのが僕らしいのかも。これまでで一番よくない演技でしたけど、僕らしい終わり方かなという意味で、すっきりしました。区切りをつけることができました」

 順位は12位。思うような演技ではなくとも「僕らしい」と言う。弱さを隠さずに、必死にもがき、それでも前を向き続けるのが、彼の生き方だ。改めてスケートへの思いを聞かれると、

「スケートは、自分の道を切り開き、人生を豊かにしてくれた。この競技に出合えて幸せ者です。ありきたりなコメントですけど」

 格好いい言葉で、クールには締めくくらない。多くの後輩とファンにスケートの豊かさを伝えた名選手が、シングルに別れを告げた。次はアイスダンスで22年北京五輪を目指す。(ライター・野口美恵)

AERA 2020年1月13日号

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「AERA」は、1月10 日に「AERA増刊 高橋大輔 挑戦者の軌跡」を発売しました。今季限りで男子シングルから引退、アイスダンスに転向することを発表している高橋選手。昨年末の全日本選手権を徹底取材し「男子シングル最後の舞」を完全ルポするほか、高橋選手のこれまでを、報道写真と記事、新たな取材で追いかけました。大好評発売中です。