「本当はテレビ電話で料理を教えてもらいたい。高校卒業後にすぐ家を出てしまい、近所でもおいしいと評判だった母の料理を教わっていない。私も一人暮らしなので、料理を通して距離を感じないコミュニケーションが取れたらいい」

 前出の牧さんによると、親のデジタル化を進めるときに二つの大きなハードルがあるという。

 一つは始め方がわからないということ。店に行ってもたくさんの機種が並び、どれが自分に合うかわからないし、店員も専門用語を使うので理解できず、買わずに帰ってきてしまう人もいる。購入の際は子どもが一緒に行って相談相手になるといい。

 都内に住む会社員の男性(48)が父親のスマホを契約したのは3年前。販売店に同行した。

「黙っていれば不要なアプリをてんこ盛りされるので、『後から解約すればいいものも含め、メールと通話以外に追加サービスは一切不要』と申し入れました」

 購入後、各種設定や必要なアプリをインストール。メッセンジャーや撮影した写真の添付方法などを操作しながら説明し、使い方を忘れたときのためにマニュアルも作って渡した。

 父からの説明がわかりにくいときも、写真があれば状況が理解できる。例えば、数年前に台風で農機具小屋の屋根が壊れたとき、父からは「今度来たときに手を貸して」の一言しかなかったが、小屋の様子を写真で送ってもらうことで、事前に修理の段取りを考え、スムーズに直すことができたという。

 もう一つのハードルは、つまずいたときに質問できる相手が周辺にいないことだ。

「子どもは、1回は教えてくれる。でもシニアは1回では覚えられない。何回も聞くと、『昨日教えたのにもう忘れたの?』の一言で挫折してしまうシニアも多い」(牧さん)

 ウェブライターのヨッピーさん(38)も、実家のデジタル化を推進中だ。その際に心がけているのは「親の質問にいつでも何度でも機嫌良く答えてあげること」だという。

「親が本当に困ってワンクリック詐欺なんかに引っ掛かりつつあるのに、子どもに相談できないっていうのが一番怖い。ありとあらゆることについて気軽に相談していいんやっていう心理的な安全を担保してあげるのが大事だと思います」

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