日本代表としても活躍する冨安健洋(c)朝日新聞社
日本代表としても活躍する冨安健洋(c)朝日新聞社

「バルサアカデミーではバルセロナの下部組織と同じく、サッカーを通じて総合的な人間力を育てることを大切にしています。バルセロナには伝統的に『五つの価値観』というものが存在しています。『謙虚さ』『努力』『チームワーク』『野心』『敬意』というもので、最終的にはそういった心構えが強い選手が大成すると考えられています」

 都内にあるバルサアカデミー品川大井町校の練習場を訪ねると、ゴールネットを揺らすたびに、日本人コーチが「もっとみんなで喜び合おう!」と声をかけている。

 サッカーはなかなかゴールが生まれないスポーツだ。だからこそ仲間とともに貴重な結果を出す価値は大きい。喜びを分かち合うことで「チームワーク」が強まる。得点に絡んだチームメートに対する「敬意」も育まれる。

「五つの価値観」を落とし込む

 先の「五つの価値観」を身につけ、豊かな人間形成を促す体制は整っている。カントリーマネージャーとして日本のバルサアカデミーの4校を取り仕切るヘスース・アルマンサ・モンセラトさんはこう説明する。

「各校とも私のようにバルセロナから派遣されたスペイン人のテクニカルコーチが常駐しています。つまり、バルセロナの育成哲学をきっちり把握している人間がいるわけで、サッカーの指導においても『五つの価値観』が常に意識されたものになっています。日本人コーチを採用する際もトライアウトでグラウンド内の立ち居振る舞いや声かけを見て、その人間性がバルサの哲学に合っているかを確かめています。採用した後も、私がカントリーマネージャーとして、指導者に対していかに『五つの価値観』をトレーニングに落とし込むかを伝える場を定期的に設けています」

 2019年1月にには、インドのデリーで「バルサアカデミー アジアパシフィックカップ」が行われた。アジアとオセアニア、バルセロナに拠点を置く13のバルサアカデミーによるサッカーの国際大会だったが、小学生カテゴリーは2年生以下が対象のU-9、3、4年生が対象のU-11、5、6年生が対象のU-13のクラスで日本勢が優勝を独占。圧倒的な強さを見せつけた。

 だが、品川大井町校に帯同することが多かったヘスースさんが一度だけ厳しい表情を浮かべた。

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