「携帯電話やインターネットの普及で私生活にも仕事が入り込むようになると、デジタルツールとの付き合い方を考えるようになった。とりわけフランスは、プライベートを重視するので、私生活が侵されることへの不満が強い。そうしたことが複雑に絡み合い、フランスでは立法化されました」(細川教授)

 その後も17年にイタリアで同様の権利が法制化され、米ニューヨーク市でも現在、条例案の審議が進む。

 つながらない権利をイグナイトアイで導入した目的を吉田崇社長(40)はこう話す。

「社員が健康で働けるために打ち出した取り組みが、つながらない権利を守ること。プライベートが充実してこそ、仕事も充実します」

 同社は13年の設立。会社が成長し残業も多くなるなか、社員の業務負荷を減らすことで定着率を高めるため、この取り組みを打ち出した。顧客には、事前に対応可能時間を説明し、それ以外なら連絡が翌営業日になることを理解してもらっている。取り組みは努力目標だが、効果は会社の業績にも表れた。

「社員のやる気もアップし、会社の売り上げは、取り組み前に比べ2倍近くアップしました」(吉田社長)

(編集部・野村昌二)

AERA 2019年12月23日号より抜粋

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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