白い空間に入ると、正面の壁に書かれた谷川さんの詩が目に飛び込んでくる。

 詩人が書き下ろした「国境なき医師団に寄せる」の全文だ。

   <傷ついて赤い血を流し 
    痛みに悲鳴を上げるのは 
    敵も味方もないカラダ 
    ココロは国家に属していても 
    カラダは自然に属している (略)>
 
 詩の下に真っすぐに並ぶ数百本の温度計は、美術作家・諸泉茂による作品だ。

 部屋中に置かれた台の上ある、無数の温度計も作品ではあるが、訪れた人が手を置き、温度を上げ、色鉛筆でメッセージを書き込めるようになっている。

「手を当てると温度計の目盛りが上がります。国境なき医師団の方々が世界でおこなっているのも、傷ついた人々に『手当て』をすること。この部屋で、来場してくれた方々も温度計に手を当ててみて、メッセージを書いてほしいのです」(諸泉さん)

 谷川さんの詩は次のように終わる。

   <国境は傷 
    大地を切り裂く傷 
    ヒトを手当てし 
    世界を手当てし 
    明日を望む人々がいる >

 なぜ、国境なき医師団のメンバーは困窮する人々のもとに向かうのか。

 そこではどんな出来事が起こっているのか。

 地球上で起こっている問題について、思いを巡らせるきっかけを与えてくれる、良質な企画展は12月22日まで開かれている。(文/ライター・矢内裕子)

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