ところが今年の4月以降、血圧が下がりはじめ、110~120mmHg/60~89mmHg程度で安定するようになった。実はその頃はハードな食事制限に疲れてしまい、普通に食事をするようになり、酒もたばこも再開していた。にもかかわらず、血圧が下がっていたのだ。

 考えられるのは仕事の変化だ。3月までは専門誌の編集長として部署の数字に追われていた。脳梗塞を発症した日は数日後に予算会議を控えており、売り上げも広告収入も厳しいなかで予算をどう通すか悩んでいた。それが4月からは現場を離れ、追い立てられるような感覚がなくなった。

 ストレスは血圧と深く関係している。ストレスを受けると心臓の拍動が増え、血管が細く狭くなり血圧が上昇する。さらに脳の視床下部・下垂体がコルチゾールというホルモンを出すように副腎に指令を出す。コルチゾールはストレスホルモンと呼ばれ、血圧を上昇させる作用がある。人形町メンタルクリニック院長の勝久寿医師はこう話す。

「高血圧は症状がないため、自覚のない人が多いが、患者さんの血圧を測ってみたら高かったことはよくあります」

 とくに過重労働の管理職男性に多く、薬を飲んで生活改善をしても血圧が下がらない人が多いという。真面目で責任感が強く、コントロール欲求が強い人は仕事を抱え込みやすく、ストレスをためやすい。

 男性も効率化のために、あらゆる案件を「ワンストップ」で集約していた。分業ができない体制になり、仕事を抱え込むようになっていた。ただ、医師から「仕事のストレスではないか」と指摘されても、「そんなはずはない」と思っていた。企画や誌面を考える仕事は楽しいし、やりがいも大きかったからだ。しかし、本人は自覚せずとも、体は悲鳴を上げていたのだ。

「高血圧などの生活習慣病とメンタル不調は、同じ根っこを共有するきょうだいのようなもの。不調が体に出る人もいれば脳に出る人もいます」(勝医師)

 現在、男性はオブザーバー的な立場だ。各部署から上がってくる問題はリスク管理のためにすべて共有され、解決策は合議制で決められる。一人で抱え込むことはまずない。

 先月、降圧剤を弱いものに変えた。医師からは「次の目標は、降圧剤をやめられるようになること」と言われている。(編集部・小長光哲郎)

AERA 2019年12月23日号

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小長光哲郎

小長光哲郎

ライター/AERA編集部 1966年、福岡県北九州市生まれ。月刊誌などの編集者を経て、2019年よりAERA編集部

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