努力をし、結果を出してきた人なのだから、もちろん「強さ」がないはずはない。だが、雅子さまの「強さ」は「図太さ」とセットのそれではなく、「繊細さ」と共にあるものなのだろう。そのことの表れの一つが「控えめな人」という証言。そのことをやっと実感した。

 そうなると、皇室に入って以来の雅子さまの苦労がますます胸に迫ってくる。

 外交官という職を中断し入った世界で求められたのは、何よりも「男子出産」だった。努力だけでは結果の出ないミッションに、さぞ戸惑ったことだろう。図太さがあれば開き直ることもできたかもしれないが、そうでない雅子さまは「適応障害」という病を得てしまった。健康と同時に、「自信」というものも失ったことは想像に難くはない。

 だが、雅子さまの負った傷はこちらの想像を超えるほどだった。その結果、雅子さまは国民との距離も遠く感じるようになっていたのだろう。そのことを「思いがけない」という言葉が表している。だからこそ先ほどの文章の続きを読むと、しみじみとした気持ちになる。

<日本国内各地で出会った沢山の笑顔は、私にとりましてかけがえのない思い出として心に残り、これからの歩みを進めていく上で、大きな支えになってくれるものと思います>

(コラムニスト・矢部万紀子

AERA 2019年12月23日号より抜粋

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矢部万紀子

矢部万紀子

矢部万紀子(やべまきこ)/1961年三重県生まれ/横浜育ち。コラムニスト。1983年朝日新聞社に入社、宇都宮支局、学芸部を経て「AERA」、経済部、「週刊朝日」に所属。週刊朝日で担当した松本人志著『遺書』『松本』がミリオンセラーに。「AERA」編集長代理、書籍編集部長をつとめ、2011年退社。同年シニア女性誌「いきいき(現「ハルメク」)」編集長に。2017年に(株)ハルメクを退社、フリーに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』『美智子さまという奇跡』『雅子さまの笑顔』。

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