プレゼントが二足歩行に関係する報告も(写真/gettyimages)
プレゼントが二足歩行に関係する報告も(写真/gettyimages)

『戦国武将を診る』などの著書をもつ日本大学医学部・早川智教授は、歴史上の偉人たちがどのような病気を抱え、それによってどのように歴史が形づくられたかについて、独自の視点で分析する。クリスマス前の今回は少し趣向を変えて「プレゼント」を“診断”する。

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 みなさんは、サンタクロースが実は両親(あるいは祖父母)だったことに気付いたのは何歳の時だろうか。筆者は幼稚園年長組の時の夜半、枕元の靴下に父が希望の品を入れてくれたのを薄目に見て、安心すると同時に少し残念だったのを覚えている。ただ、小学校に上がっても知らないふりをして、希望の品が顕微鏡、スキー、ギター、天体望遠鏡とだんだん高額になっていったのは親不孝者として忸怩(じくじ)たるものがある。

■実在の聖ニコラス

 赤い帽子に白いヒゲを生やし、白い袋を背に、8頭立てのトナカイのひく橇(そり)に乗ったサンタクロースは19世紀半ばの産物であるが、モデルとなった聖ニコラスは4世紀の実在の人物である。

 東ローマ帝国の辺境ミラ(現在のトルコ)の司教としてキリスト教の布教に努め、無実の罪に問われた死刑囚を救ったという伝説や、貧しくて嫁げない娘のいる家の煙突に、夜中、金貨を投げ入れたという伝説が残っている。イタリアでは魔女ベファーナ、ロシアでは青服に身を包んだジェド・マロースと役者は変わるが、クリスマスにプレゼントを贈る習慣は国を越えて伝わっている。歳暮やお年玉もこれに含まれるだろう。もちろん、直接面識のない選挙区民にメロンを贈ったり、かかわりのない役人に昇進祝いや小判を渡したりしてはいけない。

■贈り物の意義

 そもそもヒトは、なぜ贈り物をするのだろうか。

 進化人類学では、両足で立って歩くことを「プレゼント」が進化させたという説がある。従来、二足歩行は、気候変動によって森林が後退し草原を長距離移動することに対する適応と考えられてきた。英国ケント州立大学人類学のLovejoyは、類人猿が森から草原に出て、獲物を森で待つ妻や子どものために持ち帰るには、口を使うよりも両前足を使った方が能率がよく、より遠くからより多くのお土産を持ち帰った個体の子孫に有利な選択圧が働いたという仮説を提唱した。つまり、妻子に対するプレゼントがヒトをヒトたらしめたことになる。

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早川智

早川智

早川智(はやかわ・さとし)/1958年生まれ。日本大学医学部病態病理学系微生物学分野教授。医師。日本大学医学部卒。87年同大学院医学研究科修了。米City of Hope研究所、国立感染症研究所エイズ研究センター客員研究員などを経て、2007年から現職。著書に戦国武将を診る(朝日新聞出版)など

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