中曽根康弘元首相  (c)朝日新聞社
中曽根康弘元首相  (c)朝日新聞社
講演会で教育や安全保障について持論を述べる中曽根康弘氏=2002年3月、高崎市内 (c)朝日新聞社
講演会で教育や安全保障について持論を述べる中曽根康弘氏=2002年3月、高崎市内 (c)朝日新聞社

 過去と歴史への学びを貫く人だった。

【写真】講演会で教育や安全保障について持論を述べる中曽根康弘氏

 11月29日に101歳で死去した中曽根康弘元首相。「戦後政治の総決算」を掲げ、国鉄民営化などを推進。昭和時代に首相を務めた最後の政治家でもあった。

 1997年には、現役議員として大勲位菊花大綬章を受章。元首相の孫で自民党の康隆衆院議員(37)は、忘れられない言葉として、初当選時に「政治家というのは先見性を持たないといけない。そのためには過去を知らないといけないから、歴史を勉強しろ」と激励されたことを挙げた。

 中曽根元首相は常に過去と歴史を学ぶ人として知られていた。読売新聞グループ本社代表取締役主筆の渡辺恒雄氏(93)は、中曽根元首相の訃報を受け、コメントを発表。記者時代、毎週土曜日には読書会を開き、良書を読みあさっていたことを明かした。

 週刊誌「AERA」でも、読書家の顔をのぞかせていた。2006年8月7日号では、「超古典よこしま読破術 青春時代にリベンジ読書」と銘打ち、だれでも名前は知っているが、周囲のだれもが読み通したことのない「超古典」を紹介。各界の読書家にインタビューし、その極意を聞いていた。中曽根元首相にも、取材を申し込み、中曽根流の超古典の“打ちまかし方”を語ってもらった。

 中曽根元首相は、道元の『正法眼蔵』やパスカルの『パンセ』を上げ、普遍的な書物を読むことが政治的決断に大きく影響していたと明かしていた。また、古典を読むことが、“不死のネットワークに入ること”であると考えていた。ここでは、当時の中曽根元首相のインタビューを再掲する。

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■中曽根康弘 不死のネットワーク

 自分の専門以外の、普遍的な書物を読むことは大事だね。そうしたものは、無意識のうちに蓄積される。政治的決断をするときにも、稲光がひらめくのだ。

 道元の『正法眼蔵』の山水経は高雄海軍施設部にいたころ、森の中のセメント小屋の蚊帳のなかで、アセチレンのランプをつけて筆写した。理屈はやめ、座禅をしろ、大自然との一体感で悟りが降りる。総理だったころも日曜の夜、137回座禅に行った。

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