「目の前のシステムを変えられないと諦めているがゆえに、身近で力が及びそうな個人だけを批判して、『許せない』と思っている可能性もある」(高橋准教授)

 嫉妬や羨望、被害者意識に他者への激しい処罰感情。現代人のこうした気持ちはどこからくるのか。前出の片田さんは、背景に二つのことがあると考える。

 まずは、社会を「勝ち組」と「負け組」に分断した格差の拡大だ。羨望とは「他人の幸福が我慢できない怒りのこと」(片田さん)。格差が広がれば、そんな気持ちが社会に渦巻くのも自然だというわけだ。

 二つ目は、「我慢できない消費者が増えている」こととの関連を挙げた。これは米国のジャーナリスト、ポール・ロバーツ氏による著書『「衝動」に支配される世界 我慢しない消費者が社会を食いつくす』で指摘されている。

「みんなが最低限の努力や苦役で今すぐに最大限のリターンを得たいと思っている。やがて報われる場合もあるのに、今すぐ得られなければ『苦労したのに報われない』という不満を抱きやすいのです」(片田さん)

 そんな不寛容が「他人の得が許せない」感情を社会に蔓延させている。(編集部・小田健司)

AERA 2019年12月16日号