「ベンツに乗ってお迎えに来ても免除ですからね。実家が保育園を運営していたので違法ではないのは知っていましたが、ずるいと思っていましたよ」

 精神科医の片田珠美さんは、この女性の感情の背景には、無償化で負担が減った人たちへの「羨望」の気持ちとともに、現代人が「長い目でものごとを見ることができなくなっている」という特徴があることを指摘する。子育て支援は、ゆくゆくはこの女性の老後の生活を保障することにもつながることを、感じ取れるかどうかということだ。

 アンケートでは、関東地方の臨床検査技師の女性(38)から、「生活保護受給者が無料で医療など公的サービスを受けている」ことに納得がいかない、という意見も寄せられた。

 この女性は大学病院に勤めている。普段、患者と接することはあまりないが、検査結果がとても悪い患者に気づいたとき、カルテを見ると「負担額0%」の患者であることが多くあるという。

「無学、不摂生で褒められないような人生を送っている人が、勤勉で自己管理をしている人が支払う税金によって支えられているのは面白くありません」

 何らかの事情で働くことができないかもしれないし、憲法で保障されている「健康で文化的な最低限度の生活」もあるのだが……。そう話を向けてみると、こんな答えが返ってきた。

「薬を処方してもきちんと飲まずに、体調を悪くしてまた運ばれてくるような人たちが実際にいるんです」

 生活保護受給者への批判はこの女性に限らず、ネットの世界で「ナマポ(生保)」の蔑称で攻撃の対象になるケースが頻繁に見られる。

 前出の高橋准教授は、こうした考え方がはびこる背景をこう指摘する。

「自分自身が社会のシステムとつながっている感覚が希薄で、システムへの信頼が低下していることも一つの原因。さらに、そこには個人が『エンパワメント』を得られていない状況がある」

 ここで高橋准教授が言う「エンパワメント」とは、「個人や集団が自らの生活を変えることができると感じ、組織や社会、構造に影響を与えていくようになること」を意味するという。

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