「『サンソン家』の小説は昔に読んでいたし、『イノサン』が出たときもコミックで全巻一度に買ったぐらい興味がありました。死刑に興味があると言うとちょっと変だけど、自分の中では、人間の怒りとか悲しみ、苦しみみたいなものを深く知りたい、えぐりたいといつも思っていたから」

 中島が演じるマリーは、クールかつ残酷で、その言動は露悪的だ。が、裏では、誰よりも人の痛みを感じ、罪悪感さえも隠し持っている死刑執行人である。原作者の坂本が中島と初めて言葉を交わしたとき、「マリーが目の前に現れた、本当にいるんだという感覚に襲われた」というぐらいのはまり役だった。

 中島は、こう言う。

「マリーは、『女は死刑台にあがっちゃいけない』と言われても、そこをぶっ壊して生きてきたわけです。私も、小さい頃から、洋服や制服、メイクといったものを全部ぶち壊してきたんです。流行(はや)りにも疎かったので、すべて自分が好きか嫌いかだけで決めていた。貧乏だったから、スカートは自分でつくって、それに下駄(げた)をはいたりして。私はそれが自分なりのファッションだと思っていた。みんなにはすごい笑われたりしたけど、そういうことはへっちゃらだったんですね」

 へつらうことなく自身の筋を通し、結果、摩擦を起こすという点でもマリーと重なるところが多かったのだ。

 中島のデビューは鮮やかで衝撃的だった。

 九州から出てきたばかりの18歳の少女がいきなり連続ドラマ「傷だらけのラブソング」(01年、フジテレビ系)のヒロインに抜擢(ばってき)されたのである。高橋克典演じる元音楽プロデューサーと二人三脚で歌手デビューを果たすという、まさに中島自身を投影した物語だった。初めてとは思えぬ演技力に、視聴者からは「あの子は誰なんだ?」と問い合わせが殺到した。主題歌「STARS」も見事にはまった。回を追うごとに中島の出番は増えていった。これ以上はないというぐらいの完璧なデビューだったのだ。

 もっとも、中島自身に気負いはまったくなかった。福岡からやってきた中島の持ち物が着替えを入れた紙袋一つだったことに周囲が驚いたほどだ。

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上京したときに中島が「働ける」と思った場所は