SUNG Hsin-Yin/1974年、台北生まれ。日本の京都大学で映画理論を学んだ後、米国コロンビア・カレッジ・シカゴで映画修士号を取得。現在、初の実写長編を制作中。「米映画『ブラック・スワン』のようなサスペンス。美しいけど男性にはモテない女性が主人公です」(撮影/写真部・掛祥葉子)
SUNG Hsin-Yin/1974年、台北生まれ。日本の京都大学で映画理論を学んだ後、米国コロンビア・カレッジ・シカゴで映画修士号を取得。現在、初の実写長編を制作中。「米映画『ブラック・スワン』のようなサスペンス。美しいけど男性にはモテない女性が主人公です」(撮影/写真部・掛祥葉子)
「幸福路のチー」/悩みながらもたくましく今を生きる女性の姿を描く。東京・新宿シネマカリテほか全国順次公開中 (c)Happiness Road Productions Co., Ltd. ALL RIGHTS RESERVED.
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「藍色夏恋」発売元:マクザム+オリオフィルムズ、販売元:マクザム、価格4800円+税/DVD発売中 (c)ARCHETYPE CREATIVE LTD all rights reserved.
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 AERAで連載中の「いま観るシネマ」では、毎週、数多く公開されている映画の中から、いま観ておくべき作品の舞台裏を監督や演者に直接インタビューして紹介。「もう1本 おすすめDVD」では、あわせて観て欲しい1本をセレクトしています。

【画像】「幸福路のチー」の場面カットと「もう1本 おすすめDVD」はこちら

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 亜熱帯のモワッとするような空気感、子どもたちが歌うテレビアニメ「ガッチャマン」、空が黄金色に輝く夕暮れ時……。日本人が見てもどこか懐かしい台湾発の長編アニメーション「幸福路(こうふくろ)のチー」は、台湾のみならず、世界各地の国際映画祭で受賞を重ねた。

 蒋介石が死去した1975年4月5日生まれの主人公のチーが、現在と過去を行きつ戻りつ台湾の歴史とともに、ファンタジーを織り交ぜて人生に悩みながらも生きていく。監督・脚本はこれが長編アニメーション初となるソン・シンインさん。自身の半生を織り込み脚本を書き上げた。

 驚くのは、アニメスタジオがない台湾で、長編作品を0から4年かけて作り上げてしまったことだ。ソン監督は2013年に12分の短編アニメ「幸福路上」を、大学出たての若手2人と3人でパソコンで制作。これが自国の映画祭で最優秀アニメーション賞を受賞し、「長編に挑戦してみよう! と軽い気持ちで取り掛かりました」と話す。

 ところが、スタートしてみれば苦労の連続だった。

「台湾にこういうことわざがあります。『目の不自由な人はピストルが向けられていることがわからない』。まさに、私も自分がどれだけ大変な目に遭うのかわからなかった。諦めようとしたことは何度もありますが、そのたびに“天使”が現れて助けてくれた。その繰り返しでした」

 すぐに問題になったのが資金だ。スタジオを造る段階で全く資金がなかった。日本でいう「クラウドファンディング」のようなファンドを利用し、ソン監督の思いに共感した16人の知人・友人たちが出資してくれた。声優として参加したグイ・ルンメイや、主題歌を担当したジョリン・ツァイはギャラなしで引き受けてくれた。

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