在宅医療PAは学歴も職歴も不問だ。必要なのは「人が好きで素直なこと」。面接を受けて採用されると、2カ月の実習や座学などを受け現場に出る。現在、在宅医療PAは約30人。そのうち3分の2がとび職やシステムエンジニア、ホテルマンなど、看護や介護系以外の異業種からの転職組だ。

 先の菅原さんは幼いころから看護師の仕事に関心があったものの、短大を卒業するとそのまま一般企業に就職した。それがある日、テレビで在宅医療PAが取り上げられているのを見た母親が、「人が好きなあなたに向いているかも」と教えてくれた。祖父母を亡くしたとき、自分が何もできなかったことも思い出した。

 17年10月、菅原さんは在宅医療PAとして医療の世界に飛び込んだ。医師1人とPA2人、計3人が1チームとなり、1日10人近い患者の家を回る。

 やまと診療所は「自宅で自分らしく死ねる世の中をつくる」を理念に掲げており、約半数ががん患者で、残りは認知症や脳卒中、老人性疾患、呼吸器疾患などの患者だ。菅原さんも、2年間で50人近い看取りを経験した。何度も通ううちに身内のような存在になった人たちを看取ると、こんな悲しい仕事は向いていないと思うこともある。忙しさは前職以上だ。それでも、充実感は大きいと話す。

「生きるために何を大切にすればいいか、何を大切にすべきなのか、数えきれないくらい学べます。天職です」

(編集部・野村昌二)

AERA 2019年12月9日号

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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