全世代に共通したのは「日本の謝罪」「反省」「被害補償」という回答だった。韓国政府が十分に日本の対応を説明していないという事情もある一方、「中途半端な謝罪が多かったからではないか」と韓氏は指摘する。(朝日新聞編集委員・牧野愛博、編集部・渡辺豪)

●「日本」と聞いて最初に思い浮かべるのは、「大江健三郎」や「弁当文化」個人の意識を出発点に

 日韓の共同アンケートから見えてくるものは、お互いへの関心の深さと情報を取捨選択することの難しさではないか。

 日本人は韓国について、政治や経済だけではなく、映画や美容など実に多様な分野に関心を示している。さらに驚かされたのは、韓国側の日本に対する関心の高さだ。韓国人の回答には「大江健三郎」や「ネイルアート」「日本の弁当文化」など、個人的な体験で得たと思われる情報もかなり含まれていた。

 2018年、訪日した韓国人旅行客は約750万人にものぼる。韓国から日本各地の地方空港への航空便が伸びていたことも、何度も日本を訪れる動機付けになった。それだけに、今年夏の日本政府による輸出管理規制措置を契機とした、旅行客の大幅な落ち込みが惜しまれる。こうした事態が起きる前、大勢の日韓専門家が「双方の草の根交流は健在で、両国関係の悪化には影響されない」と語っていたが、見事にその読みは外れた。

 日本と韓国の個人個人が、お互いを直接知る機会が減ると、どうなるのか。

 11月のソウルでは「確証偏向症(バイアス)」という言葉が流行(はや)っていた。社会心理学で言う、自らが立てた仮説と異なる意見には耳を傾けない状態を表す言葉だ。

 韓国では、曹国(チョグク)前法相を巡るスキャンダルを契機に、保守系と進歩(革新)系の対立が深刻化している。双方が根拠とするのが自分たちに都合のよい情報だ。今はネット全盛の時代。送り手は相手の嗜好に合う情報を流すため、ますます得られる情報は偏っていく。

 新聞や雑誌メディアも販売部数の不振から、「自分たちを大事にしてくれる読者」に合わせた紙面を作るため、いわゆるポジショントークが増えている。

 同時に、日韓関係の悪化から、現職や元職の政治家、外交官など権威がある人々が、平気でこうした情報をもとに「韓国は信用できない国」「安倍政権は朝鮮半島の再侵略を狙っている」という言説を流している。

 アンケート結果からみる、双方に否定的な評価のほとんどは、こうした「権威ある情報」を参考にしているようにみえる。

 逆もまたしかり。どんな状況にあっても「韓国は正しい」「韓国をいじめるな」という主張もある。徴用工判決を受け入れれば日韓請求権協定が壊れ、日本の経済協力で恩恵を受けた元徴用工を含む韓国人全体に影響が及ぶことが全く考えられていない。

 日韓それぞれの国論分裂を避け、健全な論争と友好関係を深めていくためには、個人一人ひとりの意識が出発点になることを、今回の共同調査は教えてくれている。(朝日新聞編集委員・牧野愛博、編集部・渡辺豪)

AERA 2019年12月9日号

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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