韓国も、8月にGSOMIA破棄を通告した背景には、米韓同盟に頼りすぎない外交を進めたいとする進歩(革新)勢力の戦略があった。

 実際、韓国外交安保政策の実質的な統括者とされる韓国大統領府、金鉉宗(キムヒョンジョン)国家安保室第2次長が11月18日から20日まで訪米するまでは、「日本が輸出管理規制措置を撤回ないし、撤回を確約しないのなら、GSOMIAを破棄する」という既存の方針は揺らいでいなかった。

 すでにこの時点で、米国務省や国防総省などは韓国側に対して「日韓GSOMIAの破棄は北東アジアの安全保障に深刻な影響を及ぼす」という強いメッセージを繰り返し送ってはいた。

 ただ、在韓米軍駐留費の韓国分担金には強い関心を示すトランプ米大統領は、安全保障には全く関心を示していなかった。金氏が言いたかったのは、「トランプ氏が怒らなければ、GSOMIAを破棄しても問題ない」という論理だった。

 だが、訪米した金氏に対し、ポッティンジャー米大統領副補佐官(国家安全保障担当)は「日韓関係とGSOMIAは別問題だ。GSOMIAはぜひ延長してほしい」と伝えた。ホワイトハウスが国務省や国防総省の意見を最終的に支持した瞬間、韓国は従来の原則を曲げざるを得なくなった。

「輸出管理規制措置の撤回の確約」という明確な表現を盛り込めないまま、韓国はGSOMIA失効通告の一時停止という道を選ぶことになった。

 一方、韓国の姿勢の軟化を受けても、日本側の態度は硬かった。22日、日韓合意案の根回しを受けた自民党関係者らは「韓国が勝手に振り上げた拳を下ろすだけの話ではないか」と指摘するなど、冷たい空気が充満していた。

 結局、十分な時間もないまま、GSOMIAの失効通告の停止が決まった。お互いの不信感がより強まっただけに、残る懸案である輸出管理規制措置と徴用工判決問題の解決は、さらに難しくなったといえそうだ。

 日韓外相は23日の会談で、12月に中国で開かれる日中韓首脳会談の際、安倍首相と文大統領との首脳会談を推進する方針を確認したが、逆に重い荷物を背負ったと言えるだろう。(朝日新聞編集委員・牧野愛博)

AERA 2019年12月9日号