松谷さんはそのときの心情をこう振り返る。

「正直ホッとしました。ついキレて、死にに行きましたけど、その瞬間、死にたくない自分に気付いたので」

 松谷さんの心の支えはアニメだった。

「誰も味方がいなくてもアニメはあるって。親からアニメを禁止されていたら死んでいたかもしれません」

 松谷さんは試練に直面するたび、自分に起きていることを、頭の中でアニメ作品の物語のように置き換えるのだという。この習慣を松谷さんは「劇場型」にする、と表現している。いじめのフラッシュバックに見舞われたときは、華麗に困難を突破していく架空の物語の主人公に自分を重ね、できる限り傷口をふさいだ。自分が置かれた状況を客観視し、現実との間に距離を保つことで乗り越える術をいつの間にか身につけていたのだ。

「松谷リコ」も、アニメの登場人物の名前をミックスしたハンドルネームだ。

※名もなきうたを紡ぐ人~街頭でのちらし配りが未来へのカギをくれた(後編)に続きます。このシリーズは日常で出会ったり、すれ違ったりしているかもしれない、さまざまな仕事と向き合う人たちの声に耳を傾けます。

(文/編集部・渡辺豪)
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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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