「三澤農場は日本一日照時間が長いと言われているんですよ」

 町を囲む高い山が雲を切ってくれるおかげで、晴天の日が多いという。この日は「甲州」の収穫の真っ最中。この時期は毎年畑近くの事務所に数カ月間寝泊まりして、収穫に励む。

 三澤さん親子が力を入れているのが、ワインの質の8割、いや9割を決めるという人もいるほど重要な原料のぶどうだ。

 とくに祖父や父が人生をかけていたのが、この甲州。ぶどうの栽培法には大きく、よくぶどう狩りの畑にあるように頭上に枝を張り巡らせる「棚式」と、一本一本樹を立てる「垣根式」の二つがある。そのうち垣根式は棚式の半分程度と収穫量が少ないが、味が凝縮した糖度の高いぶどうが収穫できるという。

 同社では茂計さんが栽培法を棚式から垣根式に転換。平板な味わいになりがちだった甲州の弱点を克服し、糖分を加えない自然な製法でアルコールが生成される、ヘルシーでおいしいワインが醸造できるようになった。

「ワイン造りのためにすべての時間を使っています。ほかの楽しみがあるとすれば……先代である祖父のお墓参り(笑)。墓前で祖父と話していると、落ち着くんですよ」

 日本ワインをおいしくした人が、ここにもいた。(ライター・福光恵、編集部・福井しほ)

AERA 2019年12月2日号

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福井しほ

福井しほ

大阪生まれ、大阪育ち。

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