「ぎりぎりのところで社会が壊れないように、まさにマネジメントしていくということです。リアリズムと理想主義の接点です。それはレイシズムがあることを認めて調査しないと始まらない。でも日本はその議論に入ること自体を拒否している。まずレイシズムが存在していることを国家に認めさせないといけない」(鵜飼特任教授)

 10月4日、第200回臨時国会の所信表明演説で安倍晋三首相は、第1次世界大戦の戦後処理を討議した1919年のパリ講和会議で日本が「人種平等」を掲げたことを引き合いに出した。これは韓国併合で朝鮮半島を植民地化し独立運動を弾圧、シベリア出兵など日本が対外膨張の道を歩んでいる最中の出来事だった。首相のこの演説は内外で批判を浴びた。

 話を戻そう。前出の梁さんは言う。

「とりあえず謝ってうやむやにするという『日本型謝罪』をやめることが重要です。自主的にルールを作り、それに違反していると認めたうえで解決する。差別が起きた時の対応としては、サッカー界が良い例だと思います」

●差別横断幕で無観客試合、Jリーグはゼロ・トレランス

 2014年3月、浦和レッズの一部のサポーターが「JAPANESE ONLY」と書いた横断幕を観客席入場口に掲出し、大きな批判が起こった。

 Jリーグはこの横断幕を「差別的な内容」であると判断し、問題発生から5日後に浦和レッズに対し1試合「無観客試合」とするというJリーグ史上最も重い処分を下した。その背景を、「性別・国籍・老若男女問わず、多くの方々にスタジアムでサッカーを楽しんでもらいたいというJリーグの理念に反する行為が行われた」からだとJリーグ広報部は語る。これによって浦和レッズは数万人規模でチケット代の払い戻しをするなど、莫大な損害を出した。

 この迅速な決定の背景には、FIFA(国際サッカー連盟)が13年5月に採択した「人種差別主義及び人種差別撲滅に関する決議」がある。これを受け日本サッカー協会は同年11月、差別行為に対する懲罰規定を追加。Jリーグも14年4月に「三つのフェアプレー宣言」を発表した。ルール順守を求める「ピッチ上のフェアプレー」、健全な経営を求める「ファイナンシャル・フェアプレー」、そして、差別の根絶や反社会的勢力との関係遮断、社会的責任を果たす「ソーシャル・フェアプレー」の三つを掲げ、「ソーシャル・フェアプレー」実現のために、リーグと全クラブにコンプライアンス・オフィサーを配置。日々のリスクに対して迅速に対応できる体制を整えている。日本サッカー協会はこう言う。

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