蔓延する同調圧力や忖度の空気、メディアの疲弊。官邸記者会見で彼女に続こうとする記者はいない。奮闘する望月記者は孤独だ。

「一般人の入れないところに入り、声を伝える。それこそが記者の特権なのに、その権利を行使していない人が多すぎる。安倍政権になってから、メディアは機能不全を起こしている」

 日本では記者クラブに所属していない記者は、公的機関の記者会見などで取材が制限されることはよく知られている。森監督は今回、官邸での記者会見に取材申請したが、許可は下りなかった。官邸を公道から撮影するだけで警官に止められた。

「ジャーナリズムは劣化し、言論や表現の自由が抑制されています。あいちトリエンナーレ問題やKAWASAKIしんゆり映画祭での『主戦場』の一時上映中止など、少し前ならあり得なかったことが起きている。右派も左派も保守もリベラルも関係ない。この事態が異常だと気付かなければならない」

 森監督は、望月記者を“ヒーロー”として描くだけではなく、最後に仕掛けを織り込んだ。示唆するのは、人間が「集団」「組織」になったときの危うさだ。

「状況を打開するカギは『個』にあります。例えば山本太郎や、『れいわ新選組』のメンバーは組織から外れた『個』ばかり。彼らが本格的になったらおもしろくなるんじゃないかな」

 大切なのは考え、行動する「個」である「私」。その思いが「i」のタイトルに重なっている。

(フリーランス記者・中村千晶)

AERA 2019年12月2日号