水戸岡鋭治(みとおか・えいじ)/1947年、岡山県生まれ。ドーンデザイン研究所代表取締役。「ななつ星 in 九州」「ろくもん」「THE ROYAL EXPRESS」ほか数々の観光列車のデザインを手がける(撮影/白鳥真太郎)
水戸岡鋭治(みとおか・えいじ)/1947年、岡山県生まれ。ドーンデザイン研究所代表取締役。「ななつ星 in 九州」「ろくもん」「THE ROYAL EXPRESS」ほか数々の観光列車のデザインを手がける(撮影/白鳥真太郎)
水戸岡鋭治さんが車両デザインを手掛けた「THE ROYAL EXPRESS」5号車内の様子。組子などの伝統工芸やステンドグラスなどが各所に配されている(撮影/櫻井寛)
水戸岡鋭治さんが車両デザインを手掛けた「THE ROYAL EXPRESS」5号車内の様子。組子などの伝統工芸やステンドグラスなどが各所に配されている(撮影/櫻井寛)

「ななつ星 in 九州」「ザ・ロイヤルエクスプレス」「ろくもん」など、印象的な列車デザインを数多く手がけてきたデザイナー・水戸岡鋭治さん。人々を魅了するデザインには、どんな思いが込められているのか。AERA 2019年12月2日号には、水戸岡さんへのインタビューを掲載した。

【写真】水戸岡鋭治さんが車両デザインを手掛けた「THE ROYAL EXPRESS」はこちら

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 ホテルや店舗を作ってもニュースになりませんが、新しいデザインの車両を作るとニュースになります。ローカル線が手間暇かけてどこにもないサービスとどこにもないデザインの車両で、その地域の「人・物・こと」を組み込んで旅をつくると、みなさんが応援してくれます。新幹線が500キロ以上を出すのは難しい挑戦ですが、人が歩くスピードで列車を走らせるのも難しい。ゆっくり走ると、まったく違う景色が見えてくるのです。そういったローカル線だからこそできる挑戦もあります。ローカル線や無人駅は財産。廃線にしたら二度と作れません。あと10年もすれば、タイムトンネルをくぐって過去に旅するような、価値ある観光の入り口になります。

 乗り物の中で一番正確、かつ安全な乗り物が鉄道で、一番心豊かな旅ができるのも鉄道です。しかしそういうものをいままで作ってこなかった。それを「ななつ星in九州」(JR九州)で作り、その後各地で作られるようになりました。

 旅というのはいろいろなものを見たり聞いたり、全身全霊で忙しい。だから器が大切です。列車がよければ長時間座って景色を見ていても疲れません。人間にとって心地よい天然素材を使い、地元の伝統的な色や形、素材を使いつつ、古今東西のデザインを曼荼羅(まんだら)のように組み込む。そういう列車があると、サービスするクルーもそれにふさわしい振る舞いをしますし、お客さんもそれに応えようとして、いつもの自分以上の旅をつくることができる。車両全体が舞台のような旅ができれば最高です。

 感動体験をすることで人間は成長し、より高いものを求めていく。どんなデザインにすればお客さんが感動体験に出会えるのか。そういうデザインを探しています。

 電鉄会社の枠を超えた取り組みが成功すると、もっと豊かな鉄道文化が始まる可能性があります。特に自然が美しくて豊かな北海道には鉄道の旅が一番向いています。私たちが本当に見たいのは雪景色の中を走る列車。車両の中では温かいものを食べながら真っ白い雪の中を走るなんて、ものすごく豊かな旅ですよね。地元の人にとっては嫌なものでも、旅人にとっては美しい。それを地元の人に理解してほしいです。

AERA 2019年12月2日号