乙武洋匡(おとたけ・ひろただ)/1976年、東京都生まれ。98年、早稲田大学在学中に書いた『五体不満足』が600万部のベストセラーに。卒業後はスポーツライター、小学校教諭などを務めた。著書に『車輪の上』など(撮影/写真部・掛祥葉子)
乙武洋匡(おとたけ・ひろただ)/1976年、東京都生まれ。98年、早稲田大学在学中に書いた『五体不満足』が600万部のベストセラーに。卒業後はスポーツライター、小学校教諭などを務めた。著書に『車輪の上』など(撮影/写真部・掛祥葉子)

『四肢奮迅』では、電動車いすで生活する乙武洋匡さんが、ロボット義足をつけて歩くプロジェクトに挑戦。義足エンジニア、義肢装具士、理学療法士らと二足歩行を実現させていくドキュメントだ。著者の乙武さんに、同著に込めた思いを聞いた。

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 口をキリリと結び、見たことのない厳しい表情で乙武洋匡さん(43)が一歩を踏み出した。白線の引かれたトラックを小さな歩幅で前に進む。数メートル先でターンして戻ってくると地面に座り込んだ。汗が流れ、息が上がっていた。

「きょうの出来は75点から80点ですね」

 乙武さんはロボット義足で歩くプロジェクトに参加している。義足エンジニアの遠藤謙さんから「多くの人の希望になる」と協力を依頼されたのは2年前。乙武さんが不倫騒動で仕事をすっかり失っていたときだった。東京の家を引き払い、海外を放浪していた。帰国後のスケジュールも真っ白だったから、協力する時間はたっぷりあった。

「何より人様の役に立てることに飢えていました。『五体不満足』の出版から私なりに社会のため人様のために活動してきた部分があったんですが、騒動以降は一切できなくなった。もう二度とできないのかと途方に暮れていたので、依頼がうれしかったんです」

 二つ返事で受けたものの、練習のきつさは予想を超えていた。自宅のリビングルームに平行棒が運び込まれ、義足で歩く練習やストレッチが始まった。膝にモーターが入ったロボット義足は片足5・4キロと重い。太ももに装着して足を前に出そうとしても立つことすらおぼつかなかった。転んでも手をつけないので顔から床に落ちる恐怖が伴う。

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