撮影/写真部・片山菜緒子
撮影/写真部・片山菜緒子

 今年8月、健保連が出した「花粉症薬の保険適応外」提言。花粉症薬のうち、同様の効果の市販薬(スイッチOTC医薬品)で代替できる薬を健康保険適応外にするものだ。AERA 2019年11月25日号では国民を苦しめる花粉症対策を特集。薬の保険適用外の流れを、専門家らはどう見るのか、取材した。

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 医師たちは提言をどう見ているだろうか。サンシティ耳鼻咽喉科院長の鈴川佳吾さんは「ある程度混乱はするでしょう。提言通りになれば、診察しながらOTCを勧めるケースもあり、その際は一時的でも患者負担が増加する可能性がある」と話す。

「『市販薬には移行したくないから、違うのでもいいので保険で処方してください』と言われる可能性もあるとは思います。実際にそういう形で出すこともあるかもしれません」

 順天堂大学医学部・総合診療科助教の高橋宏瑞さんも、提言が実現した場合、医師は診療行動を変え、OTCが存在しない薬を出すようになっていくだろうと見る。

「3割負担だったのに、と患者さんが文句を言う可能性は高い。医者も『適用外なので薬局に行ってください』と毎回伝えるのは大変です。『いいですよ、保険で別の薬を出しておきます』と言えば信頼を得られますから」

 高橋さんは、健康保険組合連合会(健保連)の提言の方向は理解できるという。

「花粉症は毎年のことですから、多くの患者さんが自分に必要な薬の名前を知っています。OTCがあるなら、3割負担の享受を得るためにいちいち病院を受診して、薬をもらうというプロセスは、すごく無駄に感じます」

 ただ、高橋さんは、保険適用外の最初の対象として花粉症薬を選んだことには反対だとし、まずとっかかりに選ぶべきは風邪薬では、と主張する。

「花粉症は薬がないと治りません。一方で風邪は、薬は症状を緩和するだけで、薬を服用してもしなくても風邪が治るまでの期間は変わらない。不安なら病院を受診し、風邪だった場合は個人の判断で薬を飲まずに様子を見るか、つらければ市販の総合感冒薬で十分。風邪薬や湿布、ビタミン剤、保湿剤などOTCがあって病気の治療とは無関係のものから適用外にする。花粉症はその後でいいのでは」

 薬の専門家の見方はどうだろうか。兵庫県の薬局に薬剤師として勤める児島悠史さんは、提言が通れば薬局に花粉症の患者が多く流れ、その対応が必要になるだろうと予想する。そしてそこに、薬剤師にとっての課題が生じるという。

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小長光哲郎

小長光哲郎

ライター/AERA編集部 1966年、福岡県北九州市生まれ。月刊誌などの編集者を経て、2019年よりAERA編集部

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