──1曲目「彗星」の歌い出しに「そして時は2020 全力疾走してきたよね 1995年 冬は長くって寒くて 心凍えそうだったよね」とあります。二つの年を対比させたのはどうしてでしょうか?

「流動体について」や「フクロウの声が聞こえる」や「アルペジオ」は、アメリカにいながら書いていたんです。でも「彗星」は日本で書いている。「失敗がいっぱい」や「高い塔」や「薫る(労働と学業)」もそうです。それは違う感覚なんですね。前は日本に来て録音やツアーをして、あっという間に去っていった。みんなの暮らしを見る余裕がなかったんです。今は子どもがこっちの学校に入って、日本にいる。そうするといろんなことが見えてくる。そんな中で「LIFE」や「強い気持ち・強い愛」(95年発表)を作った当時を思い出すことがあって。そうすると、すごく違いが大きいんです。当時自分が生きていた日本と今の日本の対比がすごく面白い。その間にみんなが生きてきたことをすごく感じたんですよね。だから、歌詞になってるのは1995年と2020年だけど、本当はその間のことを歌いたいし、捉えたい。日本に住むようになって、僕が住んでいなかった知らない日本の何を書けばいいのかが自然に生まれてきたんです。

──1995年と今の間にあったことを、どう見ていますか?

 それは一言では言えないです。僕はその間、漠然と生きていたわけじゃないので。すごく面白いものを見たと思っているけれど、一言では言えないですね。

──当時と今の日本で、どういう違いが印象に残りましたか?

 違いはあるんですけれど、「遠くから届く宇宙の光」的なさめた見方をすると、全く変わってない。そこもすごく好きなんです。その二つは矛盾してるんだけど、どっちも実感としてある。信じられないくらい変わっていないものと、時がすごく変えてしまったものが両方ある。どっちも同じだけの誠実さを持ってそう思う。そのバランスが「彗星」になっています。

※記事の続きは「AERA 2019年11月18日号」でご覧いただけます。

(音楽ジャーナリスト・柴那典)

AERA 2019年11月18日号より抜粋