すでに海外においては、小児がんの治療中からワクチン接種の計画を進めていくことの重要性が説かれている。たとえば抗がん剤治療だけを受けた小児の白血病患者は、治療が終わって寛解状態であれば、すみやかなワクチン接種が推奨されている。一方、日本はと言えば、国立がん研究センターのがん情報サイトには、抗がん剤治療後の接種についてはインフルエンザと肺炎球菌くらいしか書かれていない。白血病などが多い小児と、固形がんが多い成人との違いもあるが、そもそも日本ではワクチンによる疾病予防の重要性の認識がまだまだ低い。

 だが前述したとおり、抗がん剤治療や造血幹細胞移植で免疫がなくなってしまった患者は適切な時期にワクチンを追加接種すべきだと、世界的に認められている。なぜ、日本人だけ打たないでいいのだろう。少なくとも、世界的なコンセンサスを国民に伝えるべきだ。

 ワクチンで防げる病気はたくさんある。ワクチンさえ接種すれば、かからなくて済む病気、守れる命がある。社会生活をするためにも感染症対策としての予防接種は欠かせない。それなのに、子どもたちがつらい抗がん剤や造血幹細胞移植を乗り越えてせっかく元気になったというときに、ワクチンで防げる病気に苦しむようなことがあってはならない。お金に余裕があれば自費でワクチンを接種できるが、親の経済問題で子どもの安全に格差が出てしまうというのは理不尽だ。

 小児がんが治った子どもたちが、危機にさらされている。問題は、そのことを多くの人が知らないということだ。彼らが無事に大人になっていくために何をしたらいいのか、すでに大人の私たちが行動する必要がある。(文/ナビタスクリニック新宿院長・濱木珠恵)

※1 https://www.jshct.com/uploads/files/guideline/04m_vaccination.pdf

※2 https://www.cdc.gov/vaccines/schedules/hcp/index.html

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