いま、柚之原牧師が懸念するのは、入管収容者に対する世間からの差別や偏見だ。入管庁の調査報告書では今年6月末現在、退去強制令書を受けた1147人のうち858人が本国への送還を拒否し、そのうち43%(366人)が過去に薬物や窃盗・詐欺などで有罪判決を受けている。また、仮放免中に逃亡し、所在不明の外国人は、今年6月末時点で332人と5年前の96人から約3.5倍に増えたとある。

 柚之原牧師はこうした実態が、長期収容は「自業自得」「必要」という風潮を生んでいると指摘する。だが、彼らは罪の償いを終えている上、そもそも過去の犯罪と長期収容の問題は全く別の話だ。

「長期収容となる人たちの中には、給料が未払いの技能実習生や、難民として認められずに苦しむ難民申請者もいます。また仮放免中は就労が禁止されているため、中には生活に行き詰まり、犯罪に手を染めてしまう人もいます。再収容されるとわかっていれば逃亡し、所在不明になる可能性が高くなるのではないでしょうか」

 20年以上前から外国人を支援する、マイルストーン総合法律事務所(東京都)の児玉晃一弁護士は、今の入管収容は1941年に成立した改正治安維持法による「予防拘禁」よりひどくなっていると警鐘を鳴らす。予防拘禁とは、再犯の恐れを理由に拘禁を認めた規定で、人権侵害だと非難された。その予防拘禁が41年からの4年間で62件あったのに対し、いま入管に収容されている前科のある外国人は前述のように366人と6倍近く。児玉弁護士は言う。

「数字だけ見ると、現代の方が人権はないがしろにされています。しかも収容の長期化など、治安維持法よりひどいことをさらに拡大しようとしている。仮放免は逃亡の危険がない限り原則として許可するなど、抜本的な政策の見直しが必要です」

 外国籍の人たちの人権をないがしろにし、彼らを「治安対策の対象」としか考えない。そんな社会に未来は創造できない。

(編集部・野村昌二)

AERA 2019年11月11日号より抜粋

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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