20代でデビューし、社会派から「スパイダーマン」の悪役まで多彩な役を演じてきた。

「絵を描くことと演じることはよく似ている。ゴッホも言っていたけれど、作品は一人で作っているわけじゃない。その行為を通して何か大きなものの一部になっていくような感覚だ。演じることも同じで、監督や脚本と対話するうち自分という個が消えて、大きなフォルムの一部になっていく感じがある。その過程で自分自身は消失していくんだ」

 それはゴッホが手紙に書いた「エターナル(永遠)に足を踏み入れる」感覚に近いかも、と笑う。

「いつもうまくできるとは限らないけれど、よい作品ができれば素晴らしい気持ちになるし、それによって自分の恐怖心や欲求を取り除くこともできる。まあ自己中心的な行為でもあるんだけど」

 来日は久しぶりだが、実はなかなかの日本通。

「能が好きなんだ。納豆も! みんなびっくりするけどね」

◎「永遠の門 ゴッホの見た未来」
現代美術作家でもあるジュリアン・シュナーベル監督がゴッホを描く。11月8日(金)から全国で公開

■もう1本おすすめDVD「ゴッホ 最期の手紙」

 これまで多くの俳優が演じ、映画の題材になってきたゴッホ。この「ゴッホ 最期の手紙」(2017年)も画期的でユニークな作品といえる。

 1891年、夏。青年アルマン(ダグラス・ブース)は、約1年前に自殺した画家ゴッホ(ロベルト・グラチーク)の手紙を預かり、それを彼が最期を過ごした村へ届けることになる。

 村人たちからゴッホについての話を聞くうち、青年は疑問を持ち始める。「ゴッホは本当に自殺だったのか?」そして彼はゴッホの死の真相を探ることになるが……。

 ゴッホの死にまつわる謎をフィクションとして描いた作品。なんといっても出色は「アニメーション? 実写?」と思わせる映像のおもしろさだ。シアーシャ・ローナンなど一流俳優にそれぞれ役を演じてもらい、その映像に125人の画家が“ゴッホ風のタッチ”で彩色を施した。背景といい、ゴッホの絵の中に迷い込んだような体験を楽しむことができる。

 さらに単なる「びっくり映像」だけではなく、手紙などの物証からゴッホの死の謎にもしっかり迫っている。サスペンスとしても、なかなか見事だ。

◎「ゴッホ 最期の手紙」
発売元:パルコ 販売元:ハピネット
価格4800円+税/DVD発売中

(フリーランス記者・中村千晶)

AERA 2019年11月11日号