「さしせまった皇位継承の危機があるわけではなく、天皇陛下(現上皇さま)─皇太子さま(現天皇陛下)─秋篠宮さま悠仁さまと、確固とした男系の継承が固まっている」

 退位に伴う代替わりが行われ、一世代進んだいまも、その認識に大きな変化はないだろう。安倍首相は10月8日の参院本会議で「男系継承が古来例外なく維持されてきたことの重みなどを踏まえながら、慎重かつ丁寧に検討を行う必要がある」と強調。「政府としては、まずは天皇陛下のご即位に伴う一連の式典や行事が国民のみなさまの祝福の中でつつがなく行われるよう全力を尽くし、そのうえで付帯決議の趣旨を尊重し、対応して参ります」と答弁した。

 政府が11月の大嘗祭後に検討する「対応」が、はや尻すぼみの様相なのは、先述した通りだ。もっとも皇位継承の危機が差し迫っていないとして議論を先送りする姿勢は、安倍政権に限った話とは言えない。

「ちょっとでも踏み出すと、『右』からも『左』からも言われてしまう」

 政権幹部は皇位継承議論の難しさを口にする。

 朝日新聞が今年3~4月に行った世論調査では、女性天皇は76%、女系天皇は74%、女性宮家は50%が認めてもよいと答えた。しかし、男系維持を求める保守派の「声」は政治的には非常に大きい。

 女性宮家をめぐって野田政権がまとめた論点整理には、26万件を超えるパブリックコメントが殺到。大半は反対意見だった。反対運動を牽引していたのが日本会議である。

「女系天皇推進派の野望を打ち砕くためにも、……『女性宮家反対』……『旧宮家から皇族を!』といった意見を、どしどし送りつけ、パブリック・コメントにおいて『女性宮家』推進派を圧倒する必要がある」(日本会議編『「女性宮家創設」ここが問題の本質だ!』)

 憲政史上初の退位が実現する舞台裏で何が起きていたのかは、『秘録 退位改元─官邸vs.宮内庁の攻防1000日』(朝日新聞取材班著)に詳しい。保守派に強い支持基盤を持つ安倍政権でさえ、皇室をめぐる保守派の主張には苦慮してきた。女性・女系天皇の容認に向かうにせよ、男系維持に向かうにせよ、皇位継承議論には相当な政治的体力を要する。

 小泉政権の女性・女系天皇の検討は、安定した政権基盤と、悠仁さま(13)という将来の皇位継承者がいない状況があったからこそ可能だった。野田政権の女性宮家の検討は逆に、政権末期だったから保守派の反発を顧みずに突っ込めたとも言える。もちろん、いずれも首相の強烈な信念がなければ始まらなかった。

 現在、30代以下の皇族は7人。悠仁さま以外は全員が未婚の女性だ。皇室典範は女性皇族結婚したら皇籍を離れると定めており、悠仁さまが即位する頃には、皇族がゼロになっている恐れもある。このため、女性宮家の必要性を指摘する声は強いが、女性宮家に生まれた子が皇位に就くことになれば、女系天皇になることから、保守派は「女性宮家は女系天皇に道を開く」と反対している。

「将来、悠仁さまが結婚して、男の子が生まれないという状況に至らなければ、政府の検討は動き出さない」

「ポスト安倍」候補の言葉が、皇位継承議論の先行きを暗示している。(朝日新聞政治部・二階堂友紀)

AERA 2019年11月11日号