「上限に達すると脳全体が過活動の状態になり、学習も情報の重みづけもできなくなりますが、眠ることでこの強度が元に戻り機能も正常化するのです」(桜井教授)

 乱暴に言うと、1日使っていっぱいになったゴミ箱が、眠ることで空に戻るイメージだろうか。この、元に戻るためにかかる時間が、必要な睡眠時間だと推測されるという。個人差はあるが、8割くらいの人にとって必要な睡眠時間は7~8時間だといわれる。若いほど睡眠時間が必要で、中学生なら9~10時間寝てもおかしくない。反対に、60歳以上になると7時間以上眠れる人は少なくなる。

 人間の睡眠は脳の状態でノンレム睡眠とレム睡眠に大別されることはよく知られている。一般的にノンレム睡眠は脳の休息、レム睡眠は体の休息とされている。「ノンレム睡眠=深い眠り」「レム睡眠=浅い眠り」と考えている人もいるが、深い・浅いはノンレム睡眠のなかにあり、4段階に判別される。健康な人はノンレム睡眠・レム睡眠のサイクルを4~5回繰り返して目覚めるが、朝に向けてノンレム睡眠はだんだんと浅くなり、レム睡眠は長くなる。この形が重要なのだという。

 そのため7時間睡眠を4時間+3時間などに分割してとると睡眠全体の効果が下がってしまう。睡眠は一括でとることが原則だ。ただし、桜井教授はこうも話す。

「睡眠不足が続いているなど緊急事態にはまず睡眠量の確保が優先。短時間でも眠れるときに眠ったほうがいい」

 睡眠が不足すると、反応速度や認知機能が大きく低下する。連続して20時間覚醒していると泥酔時、16時間覚醒で「酒気帯び程度」に相当するという。

 4時間睡眠を続けて頭が働かなくなったという声があったのも無理はない。睡眠不足は借金のように積み重なり、「睡眠負債」となってさまざまな不調を引き起こすことが知られている。

「記憶力や判断力の低下のほか、がんや糖尿病、高血圧、脳卒中、認知症などのリスクを高めることがわかっています」(脳神経科学者、枝川義邦・早稲田大学教授)

 まずは必要な睡眠時間を確保したうえで、それ以外の時間を効率的に使う方法を考えたい。(編集部・川口穣、ライター・谷わこ)

AERA 2019年11月11日号

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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