「メモっとけ」


「はい……!」

 寛一郎さんの表情に滲む、リアルな緊張感。こんな場面は他にもあり、尾花が及川さん演じる相沢に「コーヒー飲む?」と問いかけるアドリブでは、木村さんが「コーヒーメーカーってどこにあるんだっけ。俺らの休憩スペースは?」と、新たな動線が確認されることもあった。

 俳優たちのセッションのなかで、台本では補完しきれない、細やかで血の通ったやりとりが加わり、そのたびに現場は柔軟に対応して物語が濃くなっていく。

 豪華俳優陣の競演の他にも、大きな見どころとなるのが、独創的な料理の数々だ。厨房セットの裏には、業務用の冷蔵庫や立派なコンベクションオーブンなどが設置されたもう一つの厨房があり、撮影に使う料理が着々と準備されていた。尾花が作る料理は三つ星を獲得した東京・品川のフレンチレストラン「カンテサンス」の岸田周三シェフが、ライバルの丹後学(尾上菊之助さん)が作る料理は東京・飯田橋のレストラン「INUA」のトーマス・フレベル氏が監修する。盤石の態勢に木村さんはこうコメントを寄せている。

「たくさんのサポートを受けた上での撮影なので、時間を大切にして、その時できる一瞬一瞬を切り取っていけたら。レストランは単純に料理だけあれば良いのではなくて、人と人とが繋がってできるものだと思う。そういった過程を僕自身も楽しみにしています」

(ライター・大道絵里子)

AERA 2019年11月4日号