そもそも森村さんがマネの「フォリー=ベルジェールのバー」に興味を持ったのも、背景にそびえ立ち、立体と平面、現実と虚像をつなぐこの鏡の存在が大きかった。ただし、例えば主人公の後ろに置かれたテーブルを立体で表現しようとしたところ、天板に角度を付けないと垂直に見えないなど、不思議な仕掛けが絵の中に数多く施されていることがわかったという。

 鏡をはさんでどこまでが虚像で、どこまでが現実なのかをあえてわかりにくくすることで、見る人に二つのポイントを行き来しやすくしようとしたのか。森村さんも「さまざまなところにわからないように工夫を仕組んでいる不思議な絵画という思いを強くした」と言う。

 もうひとつ新調したものに、主人公の衣装もある。

「30年前は胸が大きく開いたドレスを着たのですが、主人公は都会に出てきたばかりの10代後半の女性なのでしょう。それほど大胆なドレスではなく、よく見ると胸の部分は薄いレースで覆い、さらに花でも肌を隠しています。今回は主人公のプロフィールを忠実に再現しようと、衣装を新しく作り直しました」

 そう話す森村さんは今回、主人公を「口説いている」との説もあるシルクハットの男性役で登場。前回は、主人公と男性役を1人でこなした森村さんだが、今回、参加者と画面を作り、2人の距離の近さに驚いたという。前出の鶴田さんも言う。

「顔がくっつくのではないかというほど2人は接近していたことがわかりました。それでも主人公の姿勢は意外に前のめり。物怖じしない強さも感じました」

(ライター・福光恵)