又吉直樹(またよし・なおき)/吉本興業所属の芸人。1980年生まれ。お笑いコンビ「ピース」として活動中。2015年に本格的なデビュー作『火花』で第153回芥川賞を受賞。17年に小説『劇場』を発表。本作は初の長編小説(撮影/写真部・東川哲也)
又吉直樹(またよし・なおき)/吉本興業所属の芸人。1980年生まれ。お笑いコンビ「ピース」として活動中。2015年に本格的なデビュー作『火花』で第153回芥川賞を受賞。17年に小説『劇場』を発表。本作は初の長編小説(撮影/写真部・東川哲也)

 芸人で小説家の又吉直樹さんによる『人間』が刊行された。昨年9月から今年5月まで、毎日新聞夕刊で連載されたものだ。38歳を迎えた主人公の永山が、かつて芸術家志望の仲間と過ごした青春を振り返る場面から物語は展開する。著者の又吉さんに、同著に込めた思いを聞いた。

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「人間」。この2文字を、又吉直樹さん(39)は小説のタイトルに使った。

「もともと僕は人間という言葉が好きで、この言葉をタイトルにいつか小説を書いてみたいと思っていたんです」

 人間という言葉を覚え、意識したのは小学生の時。「人」ではなく、「人間」という言葉に興味を覚えたと話す。

「例えば、僕たちは犬を見た時に『犬や』というけど、人間を見た時に『人間や』とはあまり言わないじゃないですか。『人間』っていうタイトルも『そらそうやろ感』があるというか。人間ってわざわざ言わんでも、人間は(作品に)出てくるんやろうっていう」

 小説の主人公は、イラストレーター兼コラムニストの永山。38歳の誕生日に古い知人からメールが届く場面で物語は幕を開ける。20年近く前に漫画家を目指し、大阪から上京してきた永山は、「ハウス」と呼ばれる共同住宅に暮らす。芸術家志望の若者たちが住む場所で永山は創作や議論に明け暮れ、そしてある“事件”が起きる……。こうした青春の日々がスリリングに疾走していきながら物語は“現代”へと戻る。ここから先が物語の核心となる。

「青春時代を過ごした後にも人生は続いていく。むしろそっちのほうが長くて、そう考えた時、そっちを書いてみたいと思ったのが今回の小説を書く動機だったんです」

 芥川賞を受賞した『火花』では新米のお笑い芸人、続く『劇場』では売れない劇作家、そして『人間』と、又吉さんは表現者ばかり描いてきた。

「芸人もミュージシャンもみなそうやと思うんですけど、自分でやると言って東京に出てきたけど、売れなくて苦しんだりしているじゃないですか。でもやめられへんって、なんなんやろなって。それが面白いと思っていて」

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