腸内環境を左右するのが、腸内に約100兆個存在すると言われる「腸内細菌」だ。腸の粘膜にびっしりと敷き詰められるように生息し、その様子が花畑のように見えることから、「腸内フローラ(腸内細菌叢)」とも呼ばれる。腸内細菌は、宿主である人間がとる食べものから食物繊維や糖などをエサにして増殖する。さまざまな代謝物を生成し、体の機能に多大な影響を与えることがわかっている。

 腸内細菌は、大きく三つに分けられる。(1)代謝物が消化・吸収機能に役立ち、体によい影響を与える「善玉菌」、(2)代謝によって有害な毒素を作り、下痢や便秘など体に悪影響を及ぼす「悪玉菌」、(3)善玉、悪玉の数的に優位な方に加勢する「日和見菌」だ。主な善玉菌にビフィズス菌やラクトバチルス、悪玉菌はクロストリジウムや大腸菌、日和見菌にバクテロイデス、ファーミキューテスなどがある。

 3者の理想的な比率は「2:1:7」とされる。だが、悪玉菌が増えてバランスが崩れ、日和見菌が悪玉菌に加勢すれば、腸内環境が悪化し、さまざまな不調が表れることになる。

 現代社会には、「冒頭の男性のように腸内環境のバランスを崩している人は極めて多いのでは」と江田医師をはじめ、多くの専門家が警鐘を鳴らしている。

 なかでも陥りがちな落とし穴のひとつが、ストレスなくやせられると本誌でも取りあげたことがある「糖質制限ダイエット」だ。糖質制限では、炭水化物の摂取を制限する代わりに、たんぱく質や脂質が豊富な食べものをとる。だが、「糖質を一切とらない」など極端な制限をかけてしまうと、腸に悪影響を与えることになる。

 大妻女子大学の青江誠一郎教授(栄養学)は言う。

「腸内の善玉菌や日和見菌にとって最大のエサが食物繊維です。炭水化物は食物繊維と糖質からできていて、可食部100グラムあたりの食物繊維含有量は、大麦は9.6グラムと多く、ゴボウ5.7グラム、玄米も3グラムある。穀物を食事から抜いてしまうと、善玉菌や日和見菌のエサが減り、結果、腸内環境の悪化につながるのです」

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