頼まれると断れない。「全部学びだと思ってやる。人を喜ばせると(自分の)魂が輝くから」(撮影/大野洋介)
頼まれると断れない。「全部学びだと思ってやる。人を喜ばせると(自分の)魂が輝くから」(撮影/大野洋介)
付き合いのある事業主が経営するカフェバーで談笑する三宅(撮影/大野洋介)
付き合いのある事業主が経営するカフェバーで談笑する三宅(撮影/大野洋介)

 受刑者のうち2人に1人が刑務所に戻ってしまう。そのうち約7割の人に仕事がない。それならばと、受刑者専用の求人情報誌「Chance!!」を立ち上げたのが、ヒューマン・コメディ代表の三宅晶子さん。人生は必ずやり直せると信じる強い信念はどこから生まれるのか。AERA 2019年10月28日号に掲載された「現代の肖像」から一部紹介する。

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 三宅晶子(みやけ・あきこ)(48)は、いつも走り回っている。

「就労している出所者がトラブルを起こしたため、急遽行くことになりました」

就職が決まった子のお祝いに」

 あるときは新幹線で西へ、はたまた空を飛んで南の島へ向かう。昨年春、日本初の受刑者向け求人情報誌「Chance!!(チャンス)」を創刊した。「少年院・留置場・拘置所・刑務所内でも面接可能!」「身元引受可能、社宅・寮完備の全20社掲載!!」の見出しが躍る。「ひきこもり・過去にトラウマ・前科前歴あり」のどれかに該当したら即採用という会社まである。受刑者たちが紹介企業を身近に感じられるよう、社長の顔写真やメッセージをつける。刑務所に入ったことのある人もいて、少々強面の風貌の横に「過去があったおかげで、今の自分があると思えるきっかけを作りたい」など温かな言葉が並ぶ。

 雑誌は専用の履歴書付き。入所回数と年数、犯罪歴、再犯しない決意や反社会的組織との関係、依存症を書き込む欄もある。
 これを年4回、全国の刑務所、少年院、更生保護施設など約240カ所で無料配布してもらう。オールカラー約60ページ。企業紹介などほぼすべて三宅が取材、執筆する。

「社長さんには必ず会って話をして、掲載企業はこちらで精査している。変わろうとする人を本気で支えようとする企業のお手伝いをしたい。私は種をまくだけ。いつか花が咲けばいいなと思う」

 自分の努力や実績を決してひけらかさないが、三宅の事業への注目度は高い。人口減もあって犯罪件数(刑法犯)は約20年減り続ける一方で、再犯者率が上昇しているからだ。2人に1人が刑務所に戻る現実がある。再入所した人のうち、再犯時に仕事がなかった割合は概ね7割。仕事がない人の再犯率は、仕事がある人のおよそ3倍に上る。この問題を解決するには、受刑者への就労支援が欠かせない。

 創刊から1年半。問い合わせは200人を超えるが、三宅はその一人ひとりに「いくらでもやり直せるから、一緒にやってみよう」と返事を書き、太く、長く、サポートし続ける。

 そんな三宅を「とにかく偉大な人」と表現するのは、「Chance!!」で求人募集をする大伸ワークサポート代表の廣瀬伸恵(40)だ。覚醒剤所持で2度服役。2度目に獄中出産した廣瀬は「自分は子どもがいたから立ち直れた。知り合いはみんなまだ刑務所にいる」。

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やり直せる人とそうでない人の違いは何か