稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行
稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行
黒すぎる外観が、カットした時の鮮やかなオレンジ色の感動を生む(写真:本人提供)
黒すぎる外観が、カットした時の鮮やかなオレンジ色の感動を生む(写真:本人提供)

 元朝日新聞記者でアフロヘア-がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。

【写真】稲垣さんの「マイいぶりがっこ」

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 日本酒好きとしてかねて気になっていたことが一つ。ある著名な酒の肴が、どうも日本酒にはあまり合わないのではと個人的に思えてならないのである。

「いぶりがっこ」である。

 ご存じですかね? 簡単に言えば薫製たくあんである。たくあんも薫製もそれぞれオツな酒の肴なのだから、そのダブルとなればこれほどのテッパンな肴はない、はずだ。確かに歯ごたえといい強烈な風味といい「臭いもの好き」の私好み。

 だがコト日本酒との相性に関して言えば、どうも酒が負ける気がしてならない。強烈な煙香に酒の風味が雲隠れ。むしろウイスキーやしっかりした赤ワインとの相性がいい気がするんですが、皆さんどう思われますかね?

 で、ここからが本題。最近、日本酒の肴にぴったりな「マイいぶりがっこ」の開発に成功したのであります! いや正確に言うと、燻してはいない。しかも材料はダイコンでもない。しかし見た目と食感はいぶりがっこに近い。そしていぶりがっこほど強烈すぎない夢の肴である。

 材料はニンジン。ポイントは、買ってきたらビニールから出しベランダのザルに放置すること。すると次第に皮が黒くなってきて、1週間も経てばシワッシワとなり5分の1くらいに細っこくなる。通常はここで「捨てる」人が多いと思われるがイヤイヤお待ちを。これは腐ったわけでもカビが生えたわけでもない。表面が黒いのは健康成分として有名な、かのポリフェノールの仕業である。で、これをぬか漬けにする。

 いやーこれがうまいのなんの。そして皮の黒さと強烈な歯ごたえはまさしくいぶりがっこ! 切り口は目の覚めるようなオレンジ色で煙臭もないが、ニンジンの程よいクセが、ただのぬか漬けとは違う独特のオツさを演出する。

 もしや人類初の発明ではないかと一人でドキドキしている。ちなみにニンジンのいぶりがっこ(本物)もあるらしい。こちらはちゃんと燻されている。これはこれで食べてみたい。

AERA 2019年10月21日号

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稲垣えみ子

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稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

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