筆者である岩井記者の長男も「見た目問題」の当事者だ。顔の右側の表情筋が不形成で、笑うと顔が左右田非対称にゆがんでしまう。彼の将来の夢はロボット研究者になることだ(写真は赤ちゃんのとき)[写真:筆者提供]
筆者である岩井記者の長男も「見た目問題」の当事者だ。顔の右側の表情筋が不形成で、笑うと顔が左右田非対称にゆがんでしまう。彼の将来の夢はロボット研究者になることだ(写真は赤ちゃんのとき)[写真:筆者提供]

 顔の変形やアザなど外見に問題を抱えている場合、親子で世間の目や社会的偏見に苦しむ。子どもの成長を見守るなかで、親もまた自らの見た目に対する偏見に気づかされることもある。取材した記者の長男も、見た目問題の当事者だ。AERA 2019年10月21日号から。

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 親を苦しめるのが、我が子に注がれる視線や言動だ。私も長男(9)と公園で遊んでいたとき、知らない子から「変な顔で笑うなぁ」と言われ、胸が締め付けられた経験がある。

 川崎市の天野嘉人(よしと)君(11)は、頬や顎の骨が未発達な状態で生まれた。トリーチャーコリンズ症候群という先天性の疾患で、小耳症による聴覚障害も伴う。母親の博美さん(45)にとって、嘉人君は「ユーモアにあふれ、明るくて、優しくて、かっこいい、自慢の息子」だ。嘉人君の顔をジロジロ見られたり、「怖い」と言われたりすれば、怒りがわく。ただ、ぐっとこらえる。それは嘉人君の言葉があるからだ。

「かつての私は相手をにらみ返したり、『謝って!』と言ったりしていました。ある日、6歳だった嘉人から『ママ、やめて。怖いママは見たくない。僕も顔のことを言われるのは嫌だけど、気にしないようにしているから』と言われました」

 そんな博美さんと嘉人君だが、顔を笑われることがあれば、やっぱりつらい。耐えられないときには、2人で思い切り泣いて、気持ちをはき出す。

 嘉人君はこの夏、一つのチャレンジをした。聾(ろう)者のサッカーチームで、親の同伴なしでタイへ5泊6日で遠征し、地元の子どもたちと交流した。

「僕の見た目なんか関係なく、タイの人たちは普通に話しかけてくれた」

 日本で感じるような垣根がなく、居心地のよさを感じたという。父親の博之さん(39)は、「嘉人の外見を特徴の一つととらえてもらえる。太っているとか、ホクロがあるとか、それと同じような感覚かな」と言う。

 博之さんは嘉人君に強みを持ってほしいと思っている。

「私たち親が『息子はこういう見た目だから無理だ』と決めつけ、彼の可能性を制限しないようにと思っている。さまざまなことを体験してほしい。将来、進学や就職で新しい環境に飛び込むたびに、嘉人は自分の力で人間関係をつくっていかないといけない。はじめは外見に目がいくかもしれないけど、特技があったり、面白い経験をしていたり、共通の話題や趣味があったりすれば、距離はすぐに縮まると思う」

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