「フォリー=ベルジェールのバー」 エドゥアール・マネ 1882年/フォリー=ベルジェールは、パリに実在するミュージックホールで、当時は歌や踊りのほか、サーカスや珍獣の公開など、多彩な催し物で人気を呼んだ[コートールド美術館蔵 (c)Courtauld Gallery (The Samuel Courtauld Trust)]
「フォリー=ベルジェールのバー」 エドゥアール・マネ 1882年/フォリー=ベルジェールは、パリに実在するミュージックホールで、当時は歌や踊りのほか、サーカスや珍獣の公開など、多彩な催し物で人気を呼んだ[コートールド美術館蔵 (c)Courtauld Gallery (The Samuel Courtauld Trust)]

 東京・上野で開かれている「コートールド美術館展」の目玉、「フォリー=ベルジェールのバー」。アーティストの森村泰昌さんは、この作品の登場人物に扮して初めてわかったことがあると言う。

【写真】コートールド美術館展に飾られている作品はこちら

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 教科書に必ずや載っている“ザ・名画”、お行儀のいい“応接室アート”……印象派の絵画に、そんな優等生のイメージを持っている人は少なくないだろう。

 とはいえ実際の印象派は、当時の美術界からドロップアウトした異端児の集団。その作品も、近代の美術史のなかでは最大級にぶっ飛んでいたと言っていい。落書き呼ばわりされながら革命を起こし、自由な表現というバトンを現代アートに手渡している。

 そんな印象派の熱く激しい一面を、今に伝えてくれる展覧会がやってきた。ロンドンにあるコートールド美術館のコレクションから、印象派やポスト印象派の作品などを紹介する「コートールド美術館展 魅惑の印象派」だ。

 印象派は19世紀半ばにフランスで起きた美術のムーブメントで、1874年にパリで開かれた彼らの第1回のグループ展に、モネの「印象、日の出」という作品が出品されたことを批評家がからかって、この名前が付いたことは有名だ。

 遠近法や写実主義など、それまでの西洋絵画のお約束をことごとくぶち壊し、自分たちの感覚で絵を描いたことでも知られる。モネやマネのほか、広くはセザンヌ、ファン・ゴッホ、ルノワールまで、今では押しも押されもせぬ巨匠となった画家たちが、この一派にくくられる。

 今回の展覧会も教科書級の名画が満載だが、なかでも目玉のひとつとされているのが、マネの「フォリー=ベルジェールのバー」という作品だ。

「最初に見たときは気がつかなかったんですが、鏡に映っている後ろ姿も描かれていると知って、がぜん興味を持つようになりました」

 名画の中に入り込み、登場人物になりきる作品で知られるアーティストの森村泰昌さん(68)はそう話す。ちなみにこの作品をじっくり見ると、こんな構造になっていることがわかる。

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