AERAで連載中の「いま観るシネマ」では、毎週、数多く公開されている映画の中から、いま観ておくべき作品の舞台裏を監督や演者に直接インタビューして紹介。「もう1本 おすすめDVD」では、あわせて観て欲しい1本をセレクトしています。
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もしビートルズがこの世から忘れ去られてしまったら? そんな事態を想定した新作映画が「イエスタデイ」だ。ロマンティックコメディーの名作「ノッティングヒルの恋人」を手掛けたリチャード・カーティスの脚本を、「トレインスポッティング」の敏腕監督、ダニー・ボイルが映像化した。
「はたから見れば、ビートルズの曲が満載の映画、最高だ! って思いたいよね。ところがビートルズ以外の人たちが歌うのを聞くと、すぐ飽きるんだよ(笑)。彼らはビートルズじゃないから」
主人公のジャックは下積みシンガー・ソングライター。音楽を断念すると決めたその夜、12秒間の世界大停電が起こり、彼以外の人類の記憶からビートルズの音楽、存在が消え去るのだ。ビートルズの楽曲を演奏することで、ジャックは世界的大スターの道を駆けあがっていくが……。
「主役の条件はかなり厳しかった。撮影後の吹き替えなし、本番でピアノかギターを弾きながら歌えるのが第一条件だった。この条件を満たす俳優は多くなかった」と厳しいオーディションについて語る。そして抜擢されたのがヒメーシュ・パテル。オーディションで披露してくれた演奏に心打たれたと言う。
「他の人は実力があるからなのか、音符をくわえてみたりとかして歌った。僕にしてみれば、なんでそんなことをするのか! って思ったよ。ところがヒメーシュの歌はシンプルで、聞きなれた感じがあり同時にちょっぴり不思議で。すごく好きと感じるのに理由はよく分からない。新しいようで新しくない……その感覚だよ。僕らが観客に感じてほしいのは」
“ベネディクト・カンバーバッチがセックスシンボルになれたのだから奇跡は起こるわ”などを始め、ユーモアある台詞やダジャレが満載。ジャックとエリー(リリー・ジェームズ)との恋愛や友人、家族との心温まる関係を織り込んだあたりは、いかにもリチャード・カーティス作品らしい。それをダニー・ボイルが歯切れのよい躍動感あふれるカメラワークでスクリーンに焼き付けるのだ。英音楽界の大人気スター、エド・シーランが本人役で出演するのも、とにかく楽しい。