「私は科研費をもらうのがヘタ。とくに『この研究はこれだけのメリットがある!』といった白々しい文書を書くのが苦手で……。同僚には、甘いと怒られています」

 休みの日は昼すぎからコインランドリーへ。夕食の材料を物色しに商店街を回り、カラスに出合えば、しばし観察。テレビを見ながら腕を振るった料理を味わうそうだ。ちなみにこの夏のドラマでは「偽装不倫」がお気に入りだった。意外。

 一方、同じ鳥類学者でも、森林総合研究所の主任研究員、川上和人さん(46)の研究はずいぶん違う。島嶼(とうしょ)生物学(島に生息する生物についての生物地理学)が専門で、鳥が生態系の中でどういう機能を持っているのかなど、鳥と別の種とのネットワークがメインの研究課題だ。

 今年の調査の舞台は、数年前に噴火した西之島(小笠原諸島)。まだ溶岩しかない新しい島に鳥が一番乗りですむことで、土壌などの環境がどう変わっていくかを、今後100年、千年にわたって観察していく。

「鳥を守ることによって我々の環境も守ることができるとか、研究には実はいろいろ役に立つこともある。でもそれ以上に伝えたいのは、鳥類学はおもしろいということ。役に立つからじゃない。こんなにおもしろいからみんなも知ってくれよ、とね」

 自身も普通の感覚を持った、普通の人でいたいという。そのために川上さんが決めていることがある。「疑問を持ったことを放置しない」ことだ。

「なぜ植物は緑なの?から、あの映画に感情移入できなかったのはなぜ?まで、いろんな疑問を放置せず、ちゃんと考えて自分なりに納得できる答えを出すようにしています」

 と、ここで、川上さんの著書『鳥類学者だからって、鳥が好きだと思うなよ。』にある「二次元妄想鳥類学事始め」と題した章を思い出した。ここではチョコボールのキャラクター「キョロちゃん」がいったいどんな鳥なのか、専門家の川上さんならではの視点で分析をおこなっている。

 例えば、キョロちゃんは二つの目が顔の前方に集まって、広い視界を確保できない人相……いや鳥相。また大きなくちばしを持つことから「捕食者がおらず警戒を必要としない地域で、樹上の果実を食べて暮らしている」といった仮説を立ててみせる。こんなユニークな分析も、「放置しない」ルールの一例だ。(ライター・福光恵)

AERA 2019年10月14日号より抜粋