綾野:逆に書いていて、うわーって、テンションが高い状態が続くことってないんですか?

吉田:産業スパイの話を書いていたときの全能感はすごかったですよ(笑)。来る仕事をなんでも受けちゃって。

綾野:あはは、いいですね。

吉田:連載でもなんでもできる、と思っちゃって。これ以上できるわけないのに。

綾野:ちゃんと先に物語のなかに生きていらっしゃるんですね。僕たちは役を生きているだけだけれど、書きながら生きている。それは本当にすごいことです。

吉田:綾野君のことは、前からどんな人なのだろうとは思っていたけれど、こうして直接お会いして話をする機会が増えても、会えば会うほどわからなくなる。そこが魅力なのかな。前回会ったときは特に、豪士に会いに行ったような感じでした。話していて、豪士に見えてくる瞬間がある。でも原作者と俳優の関係って、それでいいんでしょうね。

綾野:僕は修一さんの小説なら無条件に「出ます」という感じなんです。今回の役も、実は脚本の細かいところまで読む前からお引き受けしていて。本当に、信頼しています。

(ライター・古谷ゆう子)

AERA 2019年10月14日号