多くの本が出るなか、実像と離れていくようなジレンマもあります。でもそれは私の目から見た母の姿とのギャップであって、違う母もいるはず。日頃から母はだれかに「あなたってこういう人よね」と言われると、必ず「そうかしら」と反論していました。人間は簡単に決めつけられるものではない。一色なんかじゃない、という母ならではの反骨心なのかもしれません。

 9月にテレビで母の特集番組が組まれました。冒頭、司会の立川志の輔さんが母の写真を見ながら、こんな面白いことを言っていました。

「あなたがこれからどれだけ一生懸命番組をやっても、私の本当の姿なんかわからないわよーって言われているような気がする」

 映画監督の是枝裕和さんは、最近出された母の本の一節にこう書いています。

「樹木希林は面白い。上手いでも楽しいでも、ためになるでもなく、やはり面白いのだと思う」

 最高の賛辞だと思います。立派とか、ためになるとかでなく、なんだか面白い。どこかで、母はきっとほくそ笑んでいると思います。

(構成/編集部・石田かおる)

AERA 2019年10月14日号より抜粋