ツイッターでも研究を紹介する活動をしている。これを見た他分野の研究者に誘われ、新たな共同研究も始まった。「ソフトロボット学」と呼ばれる、さわり心地も柔らかい新しいロボットを作るプロジェクトだ。キリンの解剖で「わかったこと」を武器に、これまでにないロボットを作ろうと、多くの研究者と日々奮闘しているという。

 キリンの研究者ならではの悩みもある。解剖させてもらえるのは、国内の動物園で人気者だった全国のキリンが、天寿をまっとうしたとき。ただし、大きな死体を入れる冷蔵庫はないため、時間との勝負に。動物園から死んだという連絡が入るとすぐに研究室に運び込み、どんな用事にも優先させて、長ければ1週間ほど、解剖に没頭するという。

 これまで解剖したキリンは30頭。その都度、人間との約束は、ドタキャンを余儀なくされた。一方、休みの日など、「研究以外の時間は、寝ていることが多い」とか。ただし、どんな時も気がつけば、研究で引っかかっていることを考えている。

「しかもこれが、私にとっては一番楽しい時間。小さい時からキリンが好きで研究者になり、キリンが人生の一部になった。前世からの因果のようなものすら感じます」

 すぐに役に立ちそうもない研究をする人は、郡司さん自身も含め、「子どもの頃から持っていた『知りたくてたまらない』という情熱に支えられている」人が多いと感じている。(ライター・福光恵)

AERA 2019年10月14日号より抜粋