※写真はイメージ (c)朝日新聞社
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インリバの会報の1ページ。3人の出会いの場面をヤマダカナンさんが描いた
インリバの会報の1ページ。3人の出会いの場面をヤマダカナンさんが描いた
和光大学で講演したインリバの橋本隆生さん(左)とヤマダカナンさん。活動報告などを載せているインリバのブログはこちらhttps://internareberty.hatenablog.com/(撮影/ジャーナリスト・有馬知子)
和光大学で講演したインリバの橋本隆生さん(左)とヤマダカナンさん。活動報告などを載せているインリバのブログはこちらhttps://internareberty.hatenablog.com/(撮影/ジャーナリスト・有馬知子)

 体罰や性的虐待、精神的な支配──親からの過酷な虐待を生き抜いた3人がグループを結成し、講演などで実態を伝えている。三人三様の体験を発信し、痛ましい事件をなくしたいという思いが原動力だ。AERA 2019年10月7日号に掲載された記事を紹介する。

【インリバの3人の出会いを描いたマンガはこちら】

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 30人余りの大学生を前に、講師を務める男性と女性が並んで座る。穏やかな声で淡々と子どもの頃の体験を語り始めたが、内容のあまりの過酷さに学生たちは静まり返った。

「父親が弟をふらふらになるまで殴り、風呂場へ連れて行きました。『ごめんなさい』と泣き叫ぶ声がやみ、急いで行ってみると浴槽に弟が浮いていました」

 今年7月、東京都町田市の和光大学。福祉を学ぶ学生たちに語りかけたのは、都内に住む会社員の橋本隆生さん(41)だ。

 浴槽は蓋をされ、上に椅子が置かれていた。4歳だった二つ違いの弟は亡くなったが、入浴中の事故として処理された。

「弟はお父さんの暴力によって目の前で死んでしまい、お母さんもいなくて、どうしたらいいか分からない。しばらくすると、ストレスで髪の毛が全部抜けてしまった」

 漫画家のヤマダカナンさんは、男性を渡り歩く母親に育てられた。10歳の頃、突然のしかかって来た義父にキスされ、胸をもまれた。「怖くて体が動かなくなり、思考停止に陥ってしまった」。義父は風呂に一緒に入り、局部を執拗に洗うこともあった。メガネが曲がるほど殴るなど、暴力も日常的だった。

 母親からの虐待に苦しんだ都内在住のサクラさん(44)は体調不良で登壇できなかったが、用意した原稿を学生が代読した。

「大人は何をしてあげられたと思いますか」

 学生からの問いに、橋本さんは「話せる大人が誰もいなくて、床屋のおばちゃんに話していたくらいだから、どうしようもないですよね」と、子どもを救うことの難しさをにじませた。

 橋本さんとヤマダさん、サクラさんは2017年11月、虐待をテーマにした写真集『INTERNAL NOTEBOOK』に、被写体として参加したことをきっかけに知り合った。児童虐待の実態を世の中に発信し、痛ましい事件をなくしたい、という思いが一致し、昨年1月、インタナリバティ(internaReberty)プロジェクト(インリバ)を結成。写真集のタイトルの一部を借りたグループ名は、虐待当事者の思いを自由に(Liberty)発信し、社会の「知りたい」というニーズにも応える(Response)との思いを込めた造語だ。

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