黄色と藍色が正反対の報道を流している。ならば何が正しいかは、自分で考えるしかない。香港が混乱して得をするのは誰か。中国を困らせたいのは誰か。世界で同じようなことが起きた所はないのか。アラブの春? ウクライナ? 若ければ若いほどプロパガンダに洗脳されやすい。冷静に考えてほしい。大人も子どもも情緒不安定になり、どこでも大声を上げたり殴りあいが始まったりする。香港は完全におかしくなってしまった。

●在住20余年のAさん(40代日本人女性)

 いわゆる民主派に託しても何も変わらず、失望、絶望だけが募った。そこへ来て勇武派が登場して、人々が心の奥にしまっていた不満や徒労感を代弁してくれた。だから同調はできないけど、完全否定もしがたい。次世代のためにカラダを張ってくれてありがとう、という気持ちがある。

 政府は夜間外出禁止令を出さず、たまたま通りがかっただけ、写真を撮っただけ、足が遅かっただけの人を見せしめに逮捕して、市民に恐怖を伝染させている。誰が明日当たるかわからない。まさに白色テロ。どこがいつ、突然「前線」になるかわからないから、怖くて人ごみに出られない。地下鉄にも乗りたくない。一件また一件と、全過程で心理的虐待を受け続けるこの恐怖は、外の人には絶対にわからない。在住していてもわからないことがいっぱい。軽々しく口に出したくない。

 沸騰はとうに終わり、哀しみというか、真綿で首を絞められているような感じがする。香港を故郷にしたかったけど、そろそろ別の可能性も考えなきゃならない。

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 私は香港に住んだことがあるが、離れてすでに23年がたつ。本音を聞かせてくれたのは、長い付き合いのある親しい友人たち。意見の違いから関係が破綻する恐れもあり、口を開かせるのは気が重かった。そんな彼らが二派に分断されている現実を目の当たりにし、動揺した。一人一人の求める「理想と現実」、そして未来の形に誤差があるからこそ、彼らは苦悩している。私自身も引き裂かれながら、この街、そして人々と向き合い続けたい。(作家・星野博美)

AERA 2019年10月7日号