9月15日、警察が許可しなかったにもかかわらず数十万の市民が再び和理非デモに繰り出した。その後は勇武派と警察が衝突、複数の地下鉄駅が破壊され、親政府派との乱闘も起きた (c)朝日新聞社
9月15日、警察が許可しなかったにもかかわらず数十万の市民が再び和理非デモに繰り出した。その後は勇武派と警察が衝突、複数の地下鉄駅が破壊され、親政府派との乱闘も起きた (c)朝日新聞社
全身黒ずくめの勇武派。SNSを使いこなす彼らは宣伝戦略に長け、警察との戦闘を通して進化し続けている。ビジュアルのカッコよさに惹かれる人は少なくない (c)朝日新聞社
全身黒ずくめの勇武派。SNSを使いこなす彼らは宣伝戦略に長け、警察との戦闘を通して進化し続けている。ビジュアルのカッコよさに惹かれる人は少なくない (c)朝日新聞社

「逃亡犯条例」の改正案に反対するデモが大きなうねりを見せてから100日。市民と警察との衝突が激化する香港で、市井の人たちはいま、どのような状況にあるのか。作家の星野博美が彼らの胸の内を取材した。AERA 2019年10月7日号に掲載された記事を紹介する。

【写真】全身黒ずくめの勇武派

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 6月9日から始まった香港の民主化要求運動が100日を超えた。6月末に本誌に寄稿した際、私は「社会を分断する勝者なき戦い」と形容した。あれからあまりに多くのことが起き、抗議者側<黄色>と親政府側<藍色>の対立は目も当てられないほど深まっている。

 9月4日、抗議の発端となった逃亡犯条例改正案の撤回を香港特区行政長官がついに発表した。しかし抗議者側は「あまりに少なく、遅すぎた」として、「五つの要求は一つも譲らない」<五大訴求 缺一不可>という強硬姿勢を崩さない。五つの要求とは、(1)逃亡犯条例改正案の完全撤回(2)一連の運動における逮捕者の起訴中止(3)独立調査委員会の設置(4)暴動定義の撤回(5)普通選挙の実現、だ。警察との衝突は日を追うごとに激しさを増し、市民の怒りは警察の過剰な暴力に向けられている。

 一方では、市民が中国を<支那><赤納粹(Chinazi)>という侮蔑的表現で呼んだり、中国の公用語である普通話を話す中国人が襲撃されたりと、中国と中国人に対する排他的感情が香港中に蔓延していることは直視しなければならない。香港人と中国人の衝突が各地で増えている点も深刻に憂慮すべきである。

「平和的なデモを弾圧する香港警察」という報道は、やや事実であり、印象操作をされてもいる。前線で破壊や放火といった過激な行為をする人たち<勇武派>はまぎれもなく存在し、その背後に夥(おびただ)しい数の<和理非(和平、理性、非暴力)派>がいて、役割分担をしているのだ。幅広い層で構成された和理非派とデモに参加しない一般市民──つまり私の友人たち──は今の状況をどのように見ているのだろうか。それが知りたくて、香港へ向かった。

 なお、登場する人物はすべてイニシャルとする。どちらの側であれ、異なる意見の人に向けて容赦ない個人攻撃が殺到するのが、悲しいことに今の香港を覆う殺伐とした空気である。

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